受給権保護は社労士の役割の一つ 名古屋高裁画期的判決!!
愛知会 木戸 義明
1 はじめに
私が成年後見人・法廷代理人として民法第158条1項を請求根拠に争ってきた約10年遅れの障害認定日請求に基づく「障害基礎年金支給請求事件」の控訴審判決が、平成24年4月20日に名古屋高等裁判所から下されました。その概要は、「本件障害基礎年金の5年超経過で消滅時効が完成しているとして不支給とされている年金給付を支払え」、という趣旨のかつて例のない画期的なものでした。この訴訟は、当初、上記の請求理由でしたが、係争中に、より根本的なところで、国の支分権消滅時効に関する運用・解釈に誤りのあること(以下「一般論点」という)に気付き、第一審の後半からは、いわば民衆訴訟の気概を持って、こちらの主張に主軸を移し争ってきたものです。本稿では、特に後者に絞って述べます。
2 一般論点に関する主張の対立(左 原告・控訴人 右 被告・被控訴人)
◆ 本件の法定の支払期月は、国年法第18条3項但書 ←→ 同条3項原則
◆ 支分権消滅時効の起算日は裁定請求日基準 ←→ 基本権発生に準じた各月
3 原告・控訴人の主張・根拠
@ 保険者の従来の運用は、権利行使不可能な裁定請求前に法定の支払期月が存
在するというもので、事実を捻じ曲げた架空の事実(支払期月)を作り上げたものである。 A 法18条3項には、このような不測の事態のための但書が存在する。 B 裁定請求前に本件支分権の支払期月が到来することはなく、本件は裁定請求から5年を経過しておらず、消滅時効は完成していない。 C 会計法第31条1項は、消滅時効が完成してからの問題であるから、消滅時効が完成していない本件には、無関係である。 D 裁定請求時には、障害等級に該当するかどうかも未定である。主治医が該当すると認定しても、これは効力がなく、保険者の指定した医師等が認定する必要がある。1級、又は2級の障害等級は分からず、金額も分からない時点では、具体的請求権である支分権を、受給権者が請求することも、保険者が支払うこともできない。これは、正に、債権の効力発生を、将来の成否未定の事実にかからしめる方法に合致しており、停止条件付き債権そのものだ。(本邦初指摘・主張)
4 被告・被控訴人の主張・根拠
@ 消滅時効は、権利を行使することができる時から進行する(民法第166条1項) A 裁定請求は法定必須要件(法16条)で、何時でもしようと思えばできるものだから、権利者の疾病等事実上の障碍による裁定請求の遅れは、時効進行上の法律上の障碍にはならない。 B 法律上の障碍とは、権利の内容、属性自体によって権利の行使を不能ならしめる事由をいう。 C 受給権発生要件、支給時期、及び金額が法定(法18条、30条、33条等)されているので、法定の各支払期月が起算点の基準となる。 D 裁定は単なる確認行為であるから、裁定の有無、時期にかかわらず、順次支払期月が発生している。 E 具体的金額が確定していないからといって支分権たる年金受給権の消滅時効の進行に消長を来すものではない。東京高裁判決(昭和46年7月29日)の事案(国税徴収・納付の消滅時効)は本件と事案を異にする。 F 法第18条3項但書は、時効消滅した年金の支給時期を定めたものではない。 G 会計法第31条1項により「時効の援用を要せず」、「権利を放棄することができない」、から消滅時効は完成している。
5 名古屋地裁の判決理由
名古屋地裁は、前項記載の被告の主張を全面的に認め、原告の敗訴となりました。「被告の主張 @、A、B及び、Cを鑑みると、Dを観念することができる。」、及び「被告主張の Aから支分権の不行使の状態が継続しており、法律上の障碍に当らない。」、等を判決理由としていました。
6 名古屋高裁の判決理由
名古屋高裁は、地裁判決から一転して、控訴人の主張をほぼ全面的に認め、結果、画期的な判決が下されました。この際に明示された判決理由は以下のとおりです(判決理由に、次項「本村年金訴訟」上告審判決を引用)。
【名古屋高裁判決理由】
@ 裁定が単なる確認行為にすぎないことを考慮しても、裁定を受けない限り、支分権は、未だ具体化していない A裁定を受けていないことは、支分権の消滅時効との関係で、法律上の障碍に当たり、時効の進行の妨げになる。 B 本件不支給部分についての消滅時効の起算点は、本件裁定が控訴人に通知された時点である。
7 名古屋高裁と同様の考え方を説示した最高裁判例、社会保険審査会裁決
● 本村年金訴訟・上告審 (最判 平成 7.11.7)判例 参照
● 社会保険審査会裁決:裁定の性質は、実質においては裁定請求権に近い、現実的な実効性の希薄なものである。このような実効性の希薄な年金受給権について、裁定を経ない状態のままで、法令上の支給月の到来により個々の支分権まで発生するとするのは、事柄の実体から乖離した観念操作の嫌いがあり、容易に首肯することはできない。 月刊社労士2009.4号(3件の照会あり) 参照
8 その他
残念ながら、この高裁判決は、被控訴人の「上告受理申立書」の提出により、未だ確定していません。このため、我々社労士は、以下の件につき、慎重な対応が必要です。
■ 事情次第で予防的に時効中断措置を採っておくこと
支分権の消滅時効は、刻々と進行しています。最高裁の結論が出るまでにも、裁定から5年を超えると、例え10年分(2級で約800万円)でも、今度は一瞬にして全部消えてしまいます。従来の考え方に対する拘泥、支給原資等から保険者(国)による自主的救済は余り期待できません。
■ 拡大解釈要注意
本件は、老齢年金、遺族年金等のように保険事故の存在、及び時期が、誰の目にも明らかな事案について争ったものではない。 以上
2012年06月24日
緊急レポート 消された障害基礎年金の奪還可能性
posted by 326261(身にロクに無い:身に付いていない:電話番号!!) at 11:04| Comment(0)
| 1 障害年金
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