2022年03月12日

平成29年10月17日最高裁判決に係る判例評釈について


日本年金学会に提出した論文について、条件付き採用となったので標記に係る先行研究等について論述する必要があり、多数の判例評釈を読まざるを得ない環境となった。

私には、定説で検討されていない斬新な主張(例えば、「6 定説の決定的欠陥」、「14 この問題は消滅時効の問題か否か」等)があり、これ等については、先行研究で触れられているはずがなく、その正しさは、論理的に証明しているので、先行研究等に係る論述の位置付けは、査読者がお考えのほど大きなものではなかった。

嫌々、先行研究等の中には、私の知る以外にも、いわゆる裁定時説に依拠するものが存在する等新しい発見が見付かるかもしれないと思い直した。

手配をしているのは、判例タイムズ、判例時報、及びジュリストに掲載された判例評釈等である。

資料を一挙に入手することは困難であるので、先ずは、早く入手できた平成31年3月1日発行の判例時報2392号から菊池馨実 早稲田大学教授の判例評釈を読ませていただいた。

一言でいうと、最高裁判例解説と比べ、相当に客観的な記述部分が多いという感想であった。

「私見も、原則論としては本判決が示した判断枠組みと結論自体は正当であると考える。」としながらも、「ただし、本判決の射程とも関連して、最高裁が述べる一般論が、一切例外を認める余地のないものと捉えるべきかどうかは、なお検討の余地があるように思われる。」とされているところである。

「第一に、障害年金における障害認定のように、受給資格を満たすか否かが一見して明らかではない事案があり得る。本件は左下腿切断という外形的に明白な障害の事案であったが、内部障害や精神障害など、外形的にわかりにくく、認定基準も一義的明白でない障害も少なくない。この点に関連して、本件一審判決は、「障害年金の受給権者が障害年金の裁定の請求をしたところ、処分行政庁が障害年金の受給要件が満たされていると判断しなかったことによって、障害年金の裁定を受けることができなかったという事態も生じ得ないわけではないが、このような事態は障害年金の支給を受ける権利(支分権たる受給権)を行使するについての事実上の障害ということができるのであり、法律上の障害があることをもって消滅時効の進行は妨げられないという判断を左右しない。」」と判示している。

「第二に、重度の精神障害や認知症等の理由により、本人の積極的意思による裁定請求がおよそ望み難い事案があり得る。この点についても、名古屋地裁平23・11・24によれば、『権利を行使することができる時』とは、権利の行使についての法律上の障害がなくなったとき、すなわち権利の内容、属性自体によって権利の行使を不能ならしめる事由がなくなったときをいうものであって、権利者の疾病等主観的事情によって権利を行使し得ないとしても、それは、事実上の障害にすぎず、時効の進行を妨げる事由にはならない」と判示している。

「これらのうち、とりわけ第二の事情に関しては、先に紹介したように(最大判昭45・7・15(三参照))、法律上の障害がないというだけではなく、権利の性質上、その権利行使が現実に期待のできるものであることをも必要と解する判例の立場を前提とした場合、事案の性格によっては、なお消滅時効の進行を妨げる例外的場合を認める余地を残しているとみるべきではないかと考えられる。

家族や地域等を含む適切な支援を長期にわたって受けられず、裁定請求に向けた自発的な行為を求めるのが酷であるような場合にまで、消滅時効制度の趣旨を貫徹することは適切とは思われず、この場合、本判決が結論を導く前提条件のひとつとして掲げているところの、受給権者のイニシアティブによる受給プロセスの進行がそもそも望み難い。このように、本判決の射程は、受給権者のおかれた事情により、まったく例外を認めないものとまで捉えるべきでないように思われる。」と評釈してみえる。

この評釈については、公平な立場から評釈しておみえであるが、44号判決の原原審において、正しい支払期月について条件を付けて判決を下していることについて、検討されていないことは残念としかいいようがない。
posted by 326261(身にロクに無い:身に付いていない:電話番号!!) at 14:50| Comment(0) | 1 障害年金
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