昨日、令和2年2月15日に名古屋地裁岡崎支部から下された、国家賠償法に基づく損害賠償事件の控訴理由書を名古屋高裁に提出してきた。これは、障害年金支分権の時効問題に係る入口論に関する訴訟であるが、処分庁が厚生労働大臣であること等から民衆訴訟ができないので、国家賠償の形式を採ったもので、実質は、厚生労働大臣に対する異議申立の却下の違法を追及するものである。
最近紹介しているコピペ判決の代表のような酷い判決であるので、予てからの宣告のとおり3回に分割して、その内容を公開させていただく。
このコピペ判決の一番いけない点は、問題をすり替えている点で、二番目は、本題については、時効消滅の有無を問題にしているところ、既に時効消滅していることを前提にしている点であり、三番目は、歴然とした執行権の悪用である。
判決書を付ければ分かり易いのだが、スペース等の関係からそれもできないので、控訴人の主張から、原審の判断が如何に国寄り(不公平・不公正)であるかを読み取っていただきたい。
令和元年(ワ)第443号 損害賠償請求事件の控訴事件
控訴人(第1審原告) 木戸 義明
被控訴人(第1審被告) 国 同代表者法務大臣
控訴理由書
令和2年3月10日
名古屋高等裁判所 御中
控訴人 木 戸 義 明 ㊞
〒471-0041 豊田市汐見町 4−74−2(送達場所)
控訴人 木 戸 義 明
TEL 0565−32−6271
携帯 090−7317−0016
FAX 0565−77−9211
はじめに
原審は、年金法及び会計法の適用を誤った判決であり、かつ、紛争の原因となった争点の客体を誤認してなされた判決であるので、全部につき不服である。
しかし、誤判断等の核心部分は、判決書でいう「@本件却下決定」のみである(判決文9頁)ので、「A本件不対応」、及び「B本件理由不一致」については、違法理由の詳述を割愛する。
Aについては、@の違法を証明すれば、それに連動して当然に判決の違法が明らかになる内容であり、Bについては、被告の二枚舌を使った国民を欺く行為を非難したものに過ぎず、@の違法を証明すれば、判決は逆転する構成となっているので、A及びBに係る違法の理由の記載を割愛するものである。
なお、略称等については、従前の例による。
第1 原審が本訴で明らかにすべき争点の客体を誤っていることについて
1 本件争点の客体の錯誤について
原審は、本訴の損害発生の原因となった被告による違法行為自体の認識を誤ったまま判決を下している。
原告がその原因として問題にしているのは、裁定の内容としてなされた年金決定通知書への「付記」の行為(訴状5頁5行目〜同頁6行目)である。(第1準備書面3頁〜4頁)。
原告が争っているのは、「裁定とは、切っても切り離せない、年金決定通知書に同時不可分一体として一件の例外もなくなされた時効消滅した旨の付記の行為」の行政処分性(第1準備書面4頁)である。極論をいえば、裁定そのものである。
これに対して、被告は、「支分権の成立及び消滅時効について特段の行政処分をする必要がない以上、本件不支給分に係る年金の不支給が行政処分に該当しないことは明らかである」(判決7頁)と主張する。
しかし、裁定には時効の内容が含まれている(被告も認めた甲30、甲31)のだから、裁定という行政処分のほかに特段の行政処分は、行政不服審査法の対象とするために必要ではない。
この場合の行政処分は、第2準備書面及び第3準備書面で主張を補充したように裁定そのものなのである。
これらに関して、原審は、理由も示さず被告の主張を認め(判決書7頁)、この「付記」を、「裁定」とは別の物と位置付け、「本件通知」と定義してまで、「本件不支給に係る年金の不支給が行政処分に該当しないことは明らかである。」(判決書7頁)と誤った判断をした。
そもそも裁判は、被告の訴えの正否を審議するものではなく、原告の訴えの正否を審議するものであるので、原審は、審議の対象自体を主客逆転させている。裁判の手数料相当を納めているのは、被告ではなく原告である。
加えて、裁判においては、証拠に基づき議論すべきところ、安易に、証拠を無視して、間違った前提を置いているのだから、これでは、裁判というに相応しくない。
原審は審議の対象さえ正しく捉えていない真面目さに欠けるコピペ判決である。
2 上記に関する判断の遺脱について
原告は、上記のような争点のすり替えを警戒していたので、予め、証拠を示して(甲30、甲31)、争点の客体について、第2準備書面、及び第3準備書面において、本件時効は裁定の内容である旨を主張している。
本件年金支分権の消滅時効については、「裁決例による社会保険法」を著し、年金支分権の消滅時効については第一級の見識をお持ちの加茂紀久男氏が、支分権時効問題も不服申立ての対象となると判断しているのは、本件「付記」を裁定の内容と考えているからである。
被告は、上記2件の準備書面に対して、反論はしないと陳述(甲第32号証、口頭弁論調書では、「現時点での主張・立証は全て尽くした。」と表現されているが、口頭陳述では、「反論はしない」旨の発言(小川徹被告指定代理人)であった。岡留書記官確認済み)している。
上記の原告の重要な主張に対して、反論はしないとの事実があるので、被告は、時効が裁定の内容であることについては、事実上、認めたに等しい。
ところが、原審は、理由も示さず、これと正反対の判断を下したのであるから、原審には、重要な点において判断の遺脱があるといわざるを得ない。
3 被告職員の教示又は補正義務違反について
原告は、時の審査委員に、類似事件について2件の再審査請求を単なる事実行為を理由として棄却されている(平成26年7月31日裁決 平成25年(国)第2021号 西島幸夫、宮城準子、木村格、平成26年7月31日裁決 平成25年(国)第1188号 渡邉等、矢野隆男、森俊介)ので、事実行為についても審理の対象としている行政不服審査法に基づく厚生労働大臣に対する異議申立てを申し出たのである。
再審査請求の前には、客観的事実として当然審査請求も経て(被告が、内簡による運用ではないと主張する内簡を理由に棄却されている)おり、既述のとおり、本来は、社会保険審査官及び社会保険審査会法による再審査請求が受理されるべき事案であったのであるが、申出人の「事実行為である旨の主張」に便乗したその場限りの却下理由で却下された。
これら及び厚生労働大臣の却下は、明らかな違法であるが、仮に、本件の厚生労働大臣に対する異議申立てに係る申出内容及び申出先に誤り等があったとすれば、担当職員には、補正の可否及び正当な提出先について指導及び教示をするべき職務上の法的義務があり、それをしなかったことについても明らかに違法がある。
A/B に続く
国民年金の消滅時効に関する規定は102条(時効)であり、その第1項では「年金給付を受ける権利」を時効の対象にしている。つまり、「年金給付を受ける権利(当該権利に基づき支払期月ごとに又は一時金として支払うものとされる給付の支給を受ける権利を含む。第三項において同じ。)は、その支給事由が生じた日から五年を経過したときは、時効によつて、消滅する。」と規定し、また、同第2項では「前項の時効は、当該年金給付がその全額につき支給を停止されている間は、進行しない。」としている。
つまり、同条第1項に規定する「年金給付を受ける権利」(年金受給件)は、年金債権とも称され、法16条に規定する厚生労働大臣がする決定の裁定により付与される権利であることを指している。法16条では「給付を受ける権利は、その権利を有する者(以下「受給権者」という。)の請求に基いて、厚生労働大臣が裁定する。」としている。なお、ここで「受給権者」と略称するのは「裁定請求権者」を指すものと解釈せざるを得ません。
そして、法18条1項及び同3項では、支給すべき事由が生じた日から起算し、到来する支払期月(決定の裁定後に到来する偶数月)ごとに支給することとしている。つまり、「年金給付の支給は、これを支給すべき事由が生じた日の属する月の翌月から始め、権利が消滅した日の属する月で終るものとする。」「年金給付は、毎年二月、四月、六月、八月、十月及び十二月の六期に、それぞれの前月までの分を支払う。」としている。「支給すべき事由が生じた日」というのは年金の種類によって異なり、20歳以後の障害基礎年金であれば法30条1項に規定する障害認定日がこれに当たる。この日において、障害等級(1級、または、2級)に該当していること及び保険料納付要件に該当していることを要するとしている。消滅時効を援用する権利に関しては、年金債権の成立要件とはしていない。年金債権の成立日以後の付随的な権利であることは明らかである。但し、行政処分という形式を用いて行っているので、行政による援用権の行使に当たり、援用の是非を巡る行政不服審査法の適用の対象に当たるとみるのが穏当な解釈ではないでしょうか。当局が行政処分には当たらないというなら、念のために、審査請求に併行して訴訟を起こすことも考えられます。
但し、このような解釈は、年金債権が成立し、消滅時効の適用が可能になっている状態であることが前提となります。つまり、民法166条(消滅時効の進行等)1項では「消滅時効は、権利を行使することができる時から進行する。」としている。「仮に!」ですが、年金支分権が年金受給権の成立日(厚生労働大臣の決定の裁定日)に先行して障害認定日に自然成立したとしても、厚生労働大臣の決定の裁定があるまでは支給されないという実態が、国民年金法102条2項の「支給の停止」に該当し、時効の進行も停止していると言わざるを得ない。決定の裁定時から時効が進行すべきであり、決定の裁定と時を同じくして消滅時効を適用することは有りえないことになるのではないでしょうか。
なお、国民年金法102条1項は、年金支分権が年金受給権の成立日に先行して成立する権利を対象にするとは規定していません。時効の対象とすべき年金支分権は”年金受給権に基づき成立する権利”として、消滅時効を適用することを規定しています。つまり、括弧書きで「年金給付を受ける権利(年金債権)に基づき支払期月ごとに支払うものとされる給付の支給を受ける権利を含む」としているからです。この点を、審査請求の争点とすべきことになるのではないでしょうか。
当局は、裁定請求をする前から消滅時効が進行していると、公然と言い張っていますが、民法146条(時効の利益の放棄)に違反し、当然無効です。これは国民に対して「あらかじめ時効の放棄」を迫るものであるからです。
つまり、「時効の利益は、あらかじめ放棄することができない。」とされています。強行規定とされているので、当然無効になります。このような予告を根拠にして、決定の裁定を機に消滅時効の援用を強行していると判断し、争うことが出来ます。