勿論、障害年金支分権消滅時効の誤った運用を追及する裁判でのことであるが、会計法の適用と条文の解釈及び年金時効特例法の趣旨との整合性について、しばしば誤った判決理由を述べている裁判所が散見される。
全部の下級審判決ではない点に多少の救いはあるが、本来は、このような初歩的な自明の理ともいうべき事項に対して、誤った判断をしている裁判官がいること自体大問題(この全部が、3人の裁判官による合議制の裁判)である。根本、基本の部分からして間違った方向に進んでいるのである。
瀬木比呂志先生の「ニッポンの裁判」を引用するまでもなく、ほとんどの行政訴訟において、約9割は、真面に判決を下せないといわれている世界である。
hi-szk 氏は、12/08 13:35 の12/07「単純明快にすべき障害年金に係る行政の運用」へのコメントで、「これらの法令又は通達のどこに法令の逸脱があるかを指摘しないと、問題の解決にはなかなか至らないのではないのでしょうか。」 と述べていますが、そのような単純な問題ではないのです。
このコメントによると、今まで我が国における一流中の一流の弁護士がそれをしなかったかのような表現であり、私を含めそれをやっていなかったかの指摘であるので、これに対するコメントさえする気になれなかった投稿である。読者も私も迷惑を被っているのですが、それを認識していただきたい。かつての投稿禁止の経緯と現在の寛容な措置をどのように考えているのでしょうか。私には、理解できない。
この裁判においては、今までは、理屈にもならない屁理屈で裁判所が執行権を濫用していたのである。それを崩すには、平成29年10月17日最高裁(44号)判決を間違っていたと証明する必要があり、そのためには、この推論の出発点である民法第166条1項の「権利を行使することができる時」の解釈が間違っていたことを主張し、従来、隠された問題となっていた、国の時効援用権の放棄との問題を表に出し、かつ、この問題の本質は、時効の問題ではなく、遡及請求が認められた場合の、あるべき「支給期間の問題」であることを訴えていく必要があるのです。
以下に、愚かな裁判官が判決理由とした上記で述べた2つの事項に対する反論を抜粋したので、吟味していただきたい。30頁を越える準備書面をここで公表するのは適切でないので、代表例として考察していただければ幸甚である。
被告国は、現在係争中の金沢地裁のK.F氏の事件でさえ、未だこのような誤った主張を続けているのである。
準備書面(4) 草案
第● 被告の主張に対する反論
1 被告第3準備書面「第3の2(4) 会計法31条1項の規定は、時効利益の援用を要しないこと」に対する反論について
被告は、「会計法31条1項は、同消滅時効については時効利益の援用を要しないと規定している。」(被告第3準備書面11頁下から12行目〜同頁下から10行目)、及び「基本権の裁定を受けていないことは、支分権の消滅時効の進行を妨げず、年金時効特例法の趣旨とも合致するものである。」(同上11頁下から7行目〜同頁下から5行目)と主張する。
しかし、この両主張は、いずれも法律の解釈を誤ったものであるので以下で詳述する。
会計法第31条の時効の援用を要せずの問題は、そもそも、援用は、時効が完成してから初めて問題になる事柄であって、本件のように、時効が完成していない事案又は時効消滅自体を争っている事件について、この規定は全く関係しない。被告の主張は、見当違いの反論で、全く意味をなさないものである。
年金法も会計法も、権利行使できない年金について、時効を進行させる趣旨は全くない。
既に時効消滅している債権については、被告の主張するとおりである。しかし、本件では、裁定前には、各々独立した権利である支分権に対する権利不行使自体が存在しない。また、基本権に対する権利不行使を支分権に対する権利不行使とみなす論理も、民法第166条1項の解釈誤りが明らかになったことにより推論に飛躍があることが明確になり崩壊したので、本件支分権は、未だ時効消滅していない。
被告は、年金時効特例法を持ち出し、この法律が、「裁定前であっても支分権の消滅時効が進行することを当然の前提としている」として、「法2条が設けられた趣旨とも合致する」と主張したいようである。
これについては、本件とは直接関係しないことであるので、本来は、説明・反論は要しない部分であるが、しばしば下級裁判所においてもこの主張を認めている場合があるので、敢えてその見解が誤りであることを説明する。
ア 時効特例法は、単なる請求漏れには全く適用されない。同法は、新たに発見された記録について、当然に消滅時効の完成がなかったものとするのではなく、いわゆる年金記録の訂正がされ、かつ、それに基づく裁定(裁定の訂正を含む)がされた場合に初めて支給がされるというものである。
イ 詰まり、訂正された記録に基づく裁定があった時から、訂正された部分についての消滅時効が進行する、というものである。
ウ いわゆる記録訂正によって救済されるケースは、そもそも(訂正される前)の支分権発生時(裁定請求時)には年金記録として認識されておらず、裁定請求の対象になっていなかった部分が、後日、年金第三者委員会の判断等を経て、記録ありと判断されたケースである。
エ 従って、当該訂正記録部分は、それまでは裁定請求が行われていなかったものであり、当該部分に関する支分権は発生していなかったことを意味するのであるから、「裁定前であっても支分権の消滅時効が進行することを当然の前提として」いるわけではない。
オ 訂正後の支分権が発生するのは、記録を訂正し、再裁定を行った時点である。再裁定の時に支分権が発生するのであるから、訂正前の裁定に基づく時効には関わりなく、再裁定時に、訂正後の記録に基づく過去の分が遡って全額支給される、という扱いであり、これは、原告が主張している内容と一致する。
カ ここまで検証しない裁判所がままあり、会計法の援用の規定の誤解釈同様、しばしば、被告の主張が認められてきたが、慎重な裁判官は、このような意味のない被告の主張を採用していない。
以上