本日は、少し長くなるが、私が社労士法に基づく補佐人を務める予定の事件に係る主張について、これは絶対的真理と確信できる部分の主張を公開させていただく。PDFにして、引用文献等の表示を小さくしたのだが、これをブログの画面に収容するには容量オーバーとなったので、読みずらいところはあると思いますがブログの仕様に従った表示となりますのでお許しください。
第● 補佐人の主張・見解 ―時効消滅していたという被告の説明に判決に影響する重大な誤りのあったことについて―
1 時効消滅していたとする被告の従来の説明内容
本件支分権が、裁定前に時効消滅している旨の国の説明は、次のとおりである。
「支分権は、基本権について裁定請求をして厚生労働大臣の裁定を受けない限り、現実に支給を受けることができないが、国年法上、年金の支給要件、支給期間、支払期月及び支給金額が明確に定められており、厚生労働大臣の@裁定は確認行為にすぎないから、支給要件を満たせば各支払期月から順次発生していると観念することができる。そして、裁定請求をするかどうかは、受給権者の意思に委ねられているところ、受給権者は基本権についてのA裁定請求をしさえすれば現実にその支給を受けられる関係にあり、その意味でB各支払期月から権利を行使することができるのであるから、基本権について裁定を受けていないことが法律上の障害に当たるとはいえない。」
上記@〜Bの内、Bについては、更に次のように説明している。
本件支分権の消滅時効の起算点は、会計法が適用(平成19年7月6日以前に基本権が発生した場合)され、会計法が準用する民法第166条1項によって、@「権利を行使することができる時」となる。A例え基本権の裁定を受けていなかったとしても、それが支分権の消滅時効の進行を妨げる法律上の障碍には当たらず、支分権の消滅時効の起算点は、B本来の各支払期月と解すべきである。
2 上記の説明の法律解釈誤り部分について
上記前段の、@〜Bについては、障害年金については全てが成立しない。しかし、ここでは、明文の規定に反するBについてのみ主張する。
後者については、被告は、@の解釈を誤っていたので、Aの時には、Bとはならないのである。
3 上記の誤りを確認できる権威ある文献等の存在について
結論として、被告の主張の誤りは、下記の文献等から確認できる。
(1)最高裁判所判例解説
民事編平成7年度(下)本村年金訴訟 上告審判例(H7.11.7)H10.3.25財団法人 法曹会
「社会保障関係給付の受給権が実体法上いつどのようにして発生するかは、その性質から当然導き出されるものではなく、結局、立法政策により決せられるものである。現行制度は、次の三類型に分類することができる(成田頼明ほか編、行政法講義下巻173頁〔高田敏執筆〕参照)。」(939頁)
「(1)形成行為型 (2)確認行為型 (3)当然発生型」(940頁)
「(2)確認行為型 受給権の発生要件や給付金額について明確な規定が設けられているが、客観的にこの要件を満たすことによって直ちに給付請求ができるという構成にはせず、給付主体と相手方との間の紛争を防止し、給付の法的確実性を担保する見地から、行政庁による認定、決定、裁定等の確認行為によって初めて具体的な権利を発生させることとしているもの。」(940頁)
「確認行為型における認定等も、これがなければ結局具体的受給権が発生せず、その行使が不可能であるから、行政処分に当たるものと解される。これに対して、当然発生型では、実体上の権利の発生等は、行政庁の行為をまたずに法律上当然に発生するから、そこに行政機関の行為が介在しても、それは既に発生している権利等に変動を及ぼすものとは考えられず、その処分性を肯定することはできないであろう。」(940頁〜941頁)
(2)法務省内「社会保険関係訟務実務研究会」の著作物
社会保険関係訴訟の実務 第●の4(3)の引用文による
(3)裁決例による社会保険法
第●の4(3)の引用文による
(4)平成24年4月20日名古屋高裁判例
名古屋高裁平成24年4月20日判決正本 平成23年(行コ)第69号 障害基礎年金支給請求控訴事件
「裁定は、上記のとおり、確認行為にすぎないことを考慮しても、受給権者は、基本権について、社会保険庁長官に対して裁定請求をし、社会保険庁長官の裁定を受けない限り、支分権を行使することができないのであって、社会保険庁長官の裁定を受けるまでは、支分権は、未だ具体化していないものというほかはない。」(4頁下から10行目〜同頁下から6行目)
「被控訴人は、上記と異なる見解を縷々主張するが、いずれも採用することができない」(5頁14行目〜同頁15行目、7頁14行目〜同頁15行目)
「上記検討したところ及び前記前提事実によれば、本件不支給部分(平成8年11月分から平成13年3月分までの障害基礎年金)についての消滅時効の起算点は、平成18年7月6日付けでされた本件裁定が控訴人に通知された時点であるというべきところ、同時点から本件訴えの提起(平成22年3月31日)までに5年の時効期間が経過していないことは明らかであるから、同部分について消滅時効が完成しているということはできない。」(5頁下から11行目〜同頁下から5行目)
(5)国民年金法 全訂社会保険法2
第●の4(3)の引用文による
(6)札幌地裁判決理由(本件は誤りとはいえず担当裁判官の疑念である)
第●の6の引用文による
4 被告の説明誤りの原因はその根本が民法の解釈誤りにあったことについて
国の説明・主張は、上記の第●の1@の民法第166条1項の「権利を行使することができる時」の解釈を誤っていた。国の説明は、期限の定めのない債権の場合は正しい解釈となるが、期限の定めのある債権については、正解とはならない。正解は期限の定めのある債権については、「期限の到来時」となる。その具体的解釈は、「各支払期月」ではなく、「ただし書」を適用した裁定のあった日の属する月の翌月となるのである。
従って、国の主張構成は根本から崩壊した。
国年法第18条3項に係る権威ある解説書にも「ただし書の適用事例」として、本件と同様の事例(「裁定請求手続の遅れ」国民年金法 48頁15列目〜同頁18列目)が掲載されているのである。
(1) 国年法第18条3項は期限の定めをした条文である
従来、民法第166条1項の解釈自体については、誰もが国の解釈に異議を唱えていなかった。なぜなら、権利を行使することができる一番早い時期は、債権発生時だからである。ところが、最近、本件においては、その解釈が根本から間違っていたと判断できる権威ある文献が多数発見された。
その1つは「コンメンタール 民法総則 第3版」我妻榮 有泉亨著、2つ目は、「注釈民法(5)総則(5)」川島武宜編、3つ目は、「会計法精解」福田淳一編である。
そこには、それぞれ、
コンメンタール 民法総則 第3版」我妻榮 有泉亨著 日本評論社 2002年10月15日
「期限の定めのある債権については、その期限が「確定期限」でも「不確定期限」でも、期限到来の時が「権利を行使することができる時」である。」(394頁6行目〜同頁8行目)
注釈民法(5)総則(5)」川島武宜編 有斐閣 平成25年1月30日
「弁済期の定めのある権利 弁済期の定めは、債権を行使するにさいして、最も一般的にみられる法律上の障碍となるものである。権利者は、弁済期にいたるまで権利を行使しえないから、当該権利の消滅時効は、弁済期の到来をまってはじめて進行を開始する。」(282頁6行目〜同頁9行目)
平成19年改訂版 会計法精解 財団法人 大蔵財務協会 平成19年8月13日
「(2)起算点 私法上の債権について時効の進行が開始する起算点は、権利を行使し得るとき(民法第166条)、すなわち権利を行使するのに法律上の障害がなくなったときからである。これは、法律上の権利の行使ができないのに時効期間を進行させることは、時効制度の目的からみて承認し得ないからである。この結果、起算点は、@ 確定期限及び不確定期限のある債権については、期限到来の時、A 期限の定めのない債権については、債権成立の時、B 停止条件付債権については、条件成就の時からそれぞれ時効が進行する(我妻榮著新訂民法総則485頁)。」(696頁11列目〜同頁16列目)
と記載されている。
国年法第18条3項ただし書の具体的な解釈は、本来の各支払期月を待つまでもなく、直ちに支払う(現在でいえば、奇数月でも支払う)という意味である(国民年金法 48頁、15列目〜18列目)。
従って、この規定の定める全ての場合が、期限の定めをした条文であることとなる。
(2) 期限の定めのある債権の「権利を行使することができる時」は期限の到来時である
ここでいう期限の到来時とは、国年法第18条3項ただし書が適用され、裁定のあった日の属する月の翌月である。
過去分の年金は、「前支払期月に支払うべきであった年金」であるので、ただし書の適用以外にない。詰まり、遡及5年間分もそれを越える分も同じ支払期月である。これが異なるという根拠は何もなく、その面からも国の説明する各支払期月はあり得ない。
これについては、国民年金法 全訂 社会保険法 2 48頁15列目〜同頁18列目)において、具体的適用の例示が「裁定請求の手続が遅れ」と記載されており、これは正に本件が、裁定請求の手続き遅れの事案である。
従って、この場合、「民法第166条1項」の解釈が、期限の到来時となることは明白で、国がこの民法の規定の解釈を期限の定めのない債権として解釈していたので正しい支払期月に至っていないのである。
(3) ただし書の具体的な解釈は裁定のあった日の属する月の翌月である
このただし書が適用になる具体例は、解説書の掲載事例に、ずばり、「裁定請求の手続きが遅れ」た事例が掲載されているので、本件の場合そのものである。
国民年金法 全訂社会保険関係法2、 有泉亨、中野徹雄編 編者 喜多村悦史 筆者 日本評論社 昭和58年5月25日
「[4] 三項ただし書には、次のような事例が該当する。
(イ)老齢年金の受給権が一月中に発生したにもかかわらず、裁定請求の手続きが遅れ、六月に裁定されたときには、裁定後の直近の支払期月たる九月を待たずに、裁定前に経過した三月および六月の定期支払月に支払うべきであった二月から五月までの四カ月分の年金は、裁定後直ちに支払われる。」(48頁15列目〜同頁18列目)
国年法第18条の規定そのものは、全ての場合に適用できるよう期限の定めを規定した条文であるので、本件支分権の正しい支払期月は18条3項ただし書が適用となる。これは、裁定のあった日の属する月の翌月となり、支分権消滅時効の進行はその翌月の初日となる。
裁決例による社会保険法 [第2版] ―国民年金・厚生年金保険・健康保険― 加茂紀久男 著者 民事法研究会 平成23年12月1日
「裁定の法律的性質は確認処分であると解されているにせよ、受給権の行使には必ず裁定を経なければならないとされており、裁定前に支分権を行使することなどおよそあり得ないところからみれば、裁定がないうちに年金の支分権の時効期間が進行を開始するとは考えられない。」(101頁6行目〜同頁9行目)
社会保険関係訴訟の実務 法務省訟務局内 社会保険関係訟務実務研究会編 平成11年5月30日
「国年法及び厚年法上の年金の支分権の消滅時効の起算点も右の原則に従い、裁定後の分については各支払期月の到来した時であるが、裁定前に支払期が到来したものについては裁定時(ただし、初日不算入)が起算点となる。実務上、支分権に基づく支給は、支給停止事由がない限り、支払期が到来すれば行政庁により速やかに行われるため、支分権の消滅時効が訴訟上問題となった例はないようである。」(252頁17列目〜253頁2列目)
5 社会保険審査会が無制限支給を適当でないとするのは、実質、時効問題ではなく支給期間の問題であることについて
社会保険審査会が無制限支給を適当でないと考えているのは、実質、消滅時効の問題ではなく、「支払期間」の問題である。従って、国年法第18条1項にただし書を設け、「ただし、年金を遡って支給する場合は、遡及10(又は20)年間分を限度とする。」と法律を改正すれば、双方にとっての諸悪の根源は解消するのである。
6 最高裁判例に、実質、判断の遺脱があったことについて
平成29年10月17日最高裁判例(以下「44号判決」という)の第一審においては、担当裁判官が、被告の主張する支払期月が正当であるかどうかについて疑念を持っていた。しかし、ここでは深く議論されなかったようで、控訴審においても当事者から支払期月の正否の主張はなかった。従って、高裁や最高裁には判断の遺脱はなかったことになる。
しかし、これを結果として見た場合、この最高裁判断は、当該事件の支払期月の正否について、全く判断していない。
従って、この判断は、被告の主張する支払期月が誤っている旨の主張をする本訴に適用できないものである。
まして、44号判決は、この判旨とは対立する過去の最高裁判決(平成7年11月7日本村年金訴訟上告審判例(以下「212号判決」という)の判旨を誤適用(訴追請求状(甲第●号証)の言葉では、「過去の判決の判旨の一部を改変引用」、1/9下から5行目)して結論を導いているものであり、平成30年10月5日付で担当した5人の判示に対して訴追請求がされている。
212号判決の判旨は、「基本権たる受給権について、同長官による裁定を受けて初めて年金の支給が可能となる旨を明らかにしたものである。」(2頁中ほど)のに対して、44号判決の判旨は、「裁定を受けていないことは、上記支分権の消滅時効の進行を妨げるものではないというべきである。」(2頁中ほど)との判旨であるので、明らかに対立する判旨であり、矛盾している。
札幌地方裁判所 平成28年4月19日判決正本 平成27年(行ウ)第28号 障害年金請求事件
(身体(左下腿切断)の障害に係る平成29年10月17日最高裁判決の第一審の判決)
「原告が障害年金の裁定の請求をした平成23年6月30日までに、その本来の各支払期月から5年を経過していたため、支分権たる受給権の消滅時効の起算点がその本来の各支払期月である限り、その権利は時効によって消滅しており、原告は、本件不支給部分に係る障害年金の支給を受ける権利(支分権たる受給権)を有しないということとなる。」(11頁1行目〜同頁5行目)
第● 結語
被告の主張は、抽象的・観念論さえ成り立たない。まして、国年法第18条3項ただし書の明文の規定にも、その条項に係る我が国最高の権威ある文献の解説にも反し、国年法の趣旨・目的にも反していることは明らかである。
関係法令
・国年法及び(厚年法) (裁定)第16条(第33条)、(年金の支給期間及び支払期月)第18条1項及び3項(第36条1項、及び3項)、(支給要件、障害厚生年金の受給権者)第30条1項及び2項(第47条1項及び2項)、(時効)第102条1項及び2項(第92条1項及び2項)
・民法 (条件が成就した場合の効果)第127条1項、(期限の到来の効果)第135条1項、(消滅時効の進行等)第166条1項
・会計法 第5章(時効)第30条、第31条1項、及び2項
2019年08月24日
公的年金の消滅時効事件に対する補佐人の主張・見解
posted by 326261(身にロクに無い:身に付いていない:電話番号!!) at 10:03| Comment(1)
| 1 障害年金
1.「@裁定は確認行為にすぎない」としていますが、「確認行為」自体が年金債権の成立要件です。
年金債権は、「年金受給権」と同義です。話しを進めます。
民法上の債権の成立要件は、事務管理等の一部の場合を除き、申込と応諾にあります。これが、不文の法とされる債権成立の大原則です。公的年金といえども、この大原則を逸脱することはできません。公的年金に当てはめれば、申込に相当するのが「申請」「請求」がこれに当たります。応諾に相当するのが「確認」や「認定」や「裁定」がこれに当たります(なお、裁定には二義あり。正確には「却下の裁定」と「決定の裁定」です。従って厳密な論議を重ねる場合には、単に、裁定と言うだけでは、曖昧模糊として焦点を霞ませるだけで、正確な論議が進みません。「決定の裁定」と称すべきです)。確認行為「にすぎない」とするのは、法的には何等の影響のない単なる言葉の綾であって、これ差し挟んだからといって、債権成立の大原則を逸脱することはできません。「認定行為にすぎない」「裁定行為にすぎない」といっても法的効果には何等の影響のないものです。
2.「A裁定請求をしさえすれば現実にその支給を受けられる関係にある」ことは、有りえません。この文面には、二つのまやかしのロジックが隠されています。
(1)前述のように、裁定請求をした局面では、「却下の裁定」となるか「決定の裁定」になるかは不明です。厚生労働大臣の下す通知が成立する、つまり、裁定請求者が決定の通知書を受理した時点で初めて成立するからです。決定の裁定は、「年金証書」及び「年金決定通知書」を送達することによって行われ、裁定請求者がこれを受理する、つまり、これが「応諾」した証であり、年金債権が成立したことを示しています。受理していなければ、権利の成立がなく、消滅時効の進行も有りえません。
(2)「裁定請求をしさえすれば」と裁定請求を軽んじたものとしていますが、これも単なる言葉の綾です。「裁定請求をしなければ」とするのが正しい定義です。加えてあたかも「裁定請求」と「年金受給権」が同義のように受け取られる主張の展開をしていますが、裁定請求権と年金受給権は別の概念です。国民年金法102条で規定する消滅時効に係るのは年金受給権です。
3.「B各支払期月から権利を行使することができる」としていますが、権利を行使できません。
支分権は基本権の履行を分割払で受ける権利です。従って、仮にですが、先行して支分権が成立するとしても、実際に支給を受けることができるようになるのは、決定の裁定の後に到来する支払期月からであることは皆さんご存知のハズです。現実を直視することが大切です。この支払期月の到来が、民法166条1項に規定する「権利を行使することができる時」に当たります。民法166条1項は成立しいる権利を前提に規定されています。つまり、年金受給権が成立し、更に、「権利を行使することができる時」という二つ条件が揃ったときから、消滅時効の進行が始まることを規定しています。