障害年金支分権消滅時効の未支給年金請求であるが、結論から言って、「年金決定通知書を受けてから5年が経過していても法的な請求はできる」と最近になって自身の考え方を改めた。
私は、従来、年金決定通知書を受けてから5年を経過している依頼者に対しては、「私の主張からいっても時効消滅していることとなるから」との説明で、不服申立てや本人訴訟支援の受任を特段の事情のある事案以外ではお断りしてきた。
しかし、国の主張・姿勢を考えると、これは間違いであったのではないかと思い始めている。
年金事務所等から、「既に時効消滅している」と説明されれば、ほとんどの国民はそのように思って、不満が残っていても、不服申立てや訴訟を諦める。
そして、実際に5年経過してしまった方の不服申立てや訴訟に対して、「5年が経過しているから請求できない」という反論は国からはほとんどないし、裁判所もこれを問題にしていないよう(今までに行ったのは、特段の事情ありとして、相応の書証を提出していたからかもしれない)である。従って、判決理由で触れられたことも一切ない。
5年経過後の提訴等では、それでも国は請求を拒めない理由を色々主張しているが、その骨子(実例抜粋)は以下のとおりである。参考にしていただければ幸甚である。
1 消滅時効の主張が信義則に反して認められない場合
最三小判 平成19年2月6日民集61巻1号122頁は、
「普通地方公共団体が、上記のような基本的な義務に反して、既に具体的な権利として発生している国民の重要な権利に関し、法令に違反してその行使を積極的に妨げるような一方的かつ統一的な取扱いをし、その行使を著しく困難にさせた結果、これを消滅時効にかからせたという極めて例外的な場合」
には、消滅時効の主張が信義則に反して認められないと判断した。
2 本件内簡に基づく年金決定通知書が国年法及び民法に違反したものであること
被告は、本件内簡に基づき、年金決定通知書に『「年金特例法」に該当する場合を除き、平成15年9月以前の年金は、時効消滅によりお支払いはありません。」と記載し、本件不支給部分が消滅時効によって消滅している旨を通知した。
しかし、上記のとおり、本件不支給部分の消滅時効の起算点は、平成21年1月29日付け年金決定通知書を受領した時点であり、同時点において、平成15年9月以前分の障害基礎年金は消滅時効によって消滅していなかった。
よって、本件内簡に基づく年金決定通知書が国年法及び民法に違反したものである。
3 重要な権利であること
本件不支給部分の障害基礎年金は、原告の生活を支えるために必要な年金であり、本件不支給部分の支給請求権は、原告の重要な権利であることは明白である。
4 被告が積極的に原告の権利行使を妨げたこと
被告は、違法な年金決定通知書、催告書に対する回答、及び異議申立ての却下の決定書の送付によって、原告に対し、本件不支給部分が消滅時効によって消滅したものと思い込ませたのであるから、被告は積極的に原告の権利行使を妨げたといえる。
5 被告が消滅時効の主張を行うことは著しく正義に反すること
原告は、統合失調症にり患しており、国から、年金決定通知書を受領し、それによって、本件不支給部分が消滅時効によって消滅したと通知されれば、それを信用するほかなかった。大事な年金証書を紛失し、2度まで再発行していただいている状況からも分かるように、日常生活すら満足に行えない状態だったのであり、被告による年金決定通知書の記載が違法なものであると認識しようがなかった。
このような状態において、被告が消滅時効の主張を行うことは著しく正義に反するといわねばならない。
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