私は、国の障害年金支分権(基本権の発生によって支払期ごとに発生する具体的な債権)の消滅時効の取扱いが違法であるので、行服法に基づく厚生労働大臣への異議申立て、弁護士と共同受任したときの補佐人の業務、及び本人訴訟支援をしている。
国の取扱いは、「裁定前でも支分権の消滅時効は進行する」とするものであるが、大綱以下の3点の理由によっている。
@ 障害年金を受ける権利の発生要件やその支給時期、金額等については、厚生年金保険法に明確な規定が設けられている。
A 裁定は、受給権者の請求に基づいて上記発生要件の存否等を公権的に確認するものにすぎない。
B 受給権者は、裁定の請求をすることにより、同法の定めるところに従った内容の裁定を受けて障害年金の支給を受けられることとなる。
これに関しては障害年金、特に精神の障害については@〜Bのいずれもが当て嵌まらないのであるが、ほとんどの裁判所は、裁定を受けていないことは、上記支分権の消滅時効の進行を妨げるものではないとして、裁定前でも支分権の消滅時効は進行し完成するとしている。
一方、裁判官としての経験も豊富で、社会保険審査会の審査長を足かけ7年間にわたり務められ、消滅時効の研究についても相当に研究を重ねられた元判事であり最高裁判所調査官、山形地方家庭裁判所長、東京高等裁判所部総括判事等を経て、申立人(国)の社会保険審査官審査会委員(部会審査長)も経験された加茂紀久男氏の著書「判決例による社会保険法」においては、多くの下級審判決に反し、「受給権の行使には必ず裁定を経なければならないとされているところからみれば、裁定がないうちに、年金の支分権の時効期間が進行を開始するとは考えられない」同書71頁9〜12行目)等の見解が示されている。
従って、加茂氏の見解が独自の見解でないことは明白であるが、代理人の見解が「独自の見解」であるとすれば、本件消滅時効の起算点については、加茂氏の見解も「独自の見解」となってしまう。
もう少し具体的に話を勧めよう。
国の運用は、裁定という行政処分の前に支分権消滅時効が進行し消滅するというのであるから、通常は考えられない見解であるが、ほとんどの裁判では、私の考え方を「独自の見解」だから、採用できない等と説示する。
ところが、どこの裁判所も、代理人の主張(考え方)を採用していない場合でも、起算点及び支払期月に係る代理人の主張が間違っているとは判示していない。
「採用できない」、「理由があるとは認められない」、及び「独自の見解であり採用することができない」等とは判示するものの、どの判決も、「正しくない」、又は「間違っている」とは判示していない。たぶん、そのような判示ができないのである。
代理人は、国の主張に対して、どこがどのように間違っているかを具体的に指摘して主張しているのであるから、その主張を採用しないのであれば、例え判決であれ、代理人の主張のどこがどのように間違っているからと判決理由に示すべきであるが、どこの裁判所もそれを示すことができないのである。
未支給年金の金額も、2千万、3千万に及ぶ方もおり、このような曖昧な理由では、受給権者もその支援者も諦めきれないのである。しかも、この権利は、障害者にとっては、命の次に大事なものである。
この状態は、即刻、改善されるべき事柄である。
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