障害年金は、成人障害者にとって命の次に大事な権利である。そして、憲法第25条第2項に基づいて制定された各年金法には、受給権保護規定まである。
一つの極端な例を挙げて説明するが、生後10カ月で、囲炉裏に落ちて右手5指を失くしたF様が、何度も役場や年金事務所に障害年金の請求を受付けてくれるよう依頼したが、結果、初診日が不明であるとの理由のみで、平成28年になるまで、障害年金の裁定請求は受付けされなかった。
やっと、平成28年6月29日に受付され、同年9月29日に昭和38年2月に受給権発生として無事裁定がされたのであるが、裁定請求日を基準に5年遡及分までは支給されたが、5年を越えて遡及した48年1か月分は、消滅時効が完成しているという理由で支給されなかった。
年金の消滅時効が完成するには、継続5年間の権利不行使が絶対に必要である。
F様は、なぜ、継続5年間の権利不行使があったとみなされたのでしょうか。これは、真に奇っ怪で不思議なことである。私は、これは、言葉は悪いが、国家的詐欺であると思っている。
国の説明を簡記すると以下のとおりである。
「受給要件等の規定が明確で、裁定請求さえすれば年金は支給されるのに、裁定請求できる状態になってから、5年間も裁定請求をしなかったのは、権利の上に眠っていた者であり、法の保護に値しない」という主旨である。
ところが、この説明は、裁定請求さえすれば100%支給される通常の場合の老齢年金についていえることで、初診日証明義務、及び障害認定(障害の状態に多様性があり、障害等級の認定に困難性)という受給上の障害要素のある障害年金にはいえないことなのである。
この説明では、F様の事案や、事後重症認定に対する不服申立てで、審査請求等の途中で、認定日請求を認める旨の処分変更のあった事案については、説明が成り立たない。
F様は、何度も何度も裁定請求をしてくれるようお願いしている。そして、このケースでは、20歳前障害に該当するので、何年何月何日と初診日を特定しなくても、受給要件の有無は確認できる事案である。
このF様のどこに継続5年間の権利不行使があったのでしょうか。
ほとんどの国民が、この無茶苦茶な国の説明を違法と感じていないのは、各々独立した権利である基本権と支分権を混同させているからです。
国は、基本権に対する権利不行使、詰まり、裁定請求遅れを支分権に対する権利不行使とみなして時効消滅させているのですが、これはとんでもない虚構なのです。
障害年金について、行政処分である裁定前に支分権の消滅時効が完成するなどといったことは起こり得ないことですが、これが、上告審等として最高裁まで届いているにも拘らず黙認されている(例外として、平成29年10月17日の身体(左下腿切断)の障害に係る1件だけは、判決例がある)のが今日の司法の現状なのです。
ところが、この1件の判決例が、精神の障害等事情の異なる事案についてまで下級審で引用されてしまっているのだからこれこそが大問題である。
最高裁は、これを最高裁でとことん議論すると、国に不利になる判決及び判決理由を出さざるを得なくなるので、最高裁は、原則、上告は却下し、上告受理申立ては、受付けしないのである。
上記のF様の場合、国でさえ、受給権を認めていなかった権利が、裁定と同時に、一瞬にして消滅時効にかかってしまうこととなるのですが、これを法律的解釈として説明することは、誰にもできないことです。
こんな無茶苦茶を止めさせるには、司法では中々できそうもない現状ですので、多くの国民がこの違法を知り、大きな声として抗議する必要があります。
政治運動ではないのですが、国による単純な法律違反を正すのにも署名運動等が必要では、最早、法治国家とは言えません。
タグ:真に奇っ怪で不思議なこと