提出積みの上告理由書及び上告受理申立て理由書の内、後者についてのみ最高裁第三小法廷に対して、昨日、上告受理申立て理由補充書を投函した。
前々から準備はしていたのであるが、相手方からの意見書の提出を確認して、これに対する反論を予定していたが、相手方は、特に意見書等の提出は予定していないようであるので、最高裁がいつ決定(調書)を出すかは分からないことであるので、急ぎ投函した。
それぞれの理由書に続き、以下に、今回の控を公開した。フォント等は、ブログ画面の設定とは異なるので、原本を忠実に再現できていないところもあるのでご容赦いただきたい。
平成30年(行ヒ)第338号 行政上告受理申立て事件
申立人 井原 毅士生
相手方 国
上告受理申立て理由補充書
平成30年11月21日
最高裁判所 第三小法廷 御中
住所 〒590-0013 大阪府堺市南区晴美台4丁 1−11−1102
上告人兼申立人 井原 毅士生 ㊞
電話番号 072−295−7060
携帯番号 090−8466−7695
上告人兼申立人 井原 毅士生 ㊞
電話番号 072−295−7060
携帯番号 090−8466−7695
送達場所 471-0041 愛知県豊田市汐見町 4ー74ー2
木戸 義明
木戸 義明
申立人は、御庁が矛盾する説示を展開することはないものと信じ切っている。しかし、残念ながら、この問題は、相手方も裁判所も深く掘り下げてほしくない問題のようである。従って、上告理由又は上告受理申立て理由があるにも拘らず、「ない」として、上告審として受理しない旨の決定を出さないことまでは確信がない。
そこで、その懸念を払拭するため本書を認めた。
本書では、従来の構成とは違った視点、詰まり、御庁が、本件が、民事訴訟法に定める「その他の法律の解釈に関する重要な事項を含むものと認められる事件」の内容であることを否定し難い内容である事項について真っ先に述べ、加えて、最近明らかになった新しい不合理な事実や関連する重要事項について、主張・説明を補充する。
この問題は、重要な権利について、福祉行政を担う厚生労働省による最も遵法精神を問われる国による違法行為の繰り返しであるので、徹底的に議論し審議されるべき問題なのである。
また、司法的には、別の問題があり、平成29年10月17日最高裁判決が出されて以来、この判決自体にも問題があるにも拘らず、多数の下級裁判所で、これを法令のごとくに適用した誤った判決が出されており、今後もこのことが続くことが予測される。この現象そのものが、あってはならない重大事である。
本件の実体は、国自身でもこの取扱いの矛盾に気付いていながら、類似事件への影響の大きさを考えると今さら変更することができずにいる問題なのである。
以前、統合失調症が精神分裂病と呼ばれていたこともあり、金銭よりも秘密の方が大事であるとお考えのご本人及びご家族もおみえになる。
本来、この請求は、本人が支給を希望するのであれば、本人の意思を確認する程度の簡単な手続きで支給されるべき性質のものである。
第1 法の定める正当な支払期月(弁済期)について
1 原審は年金法の定める正当な支払期月について必要な検証をしていないこと。
期限の未到来は、時効進行上の法律上の障害として2大要素の双璧を成す条件未成就と同列の重みを持つ事柄である。申立人が既に、正しい支払期月について主張の根拠やこの要素の重要性を主張・説明しているにも拘らず、関係条文のただし書自体を関係条文と認識しておらず原審は、これに関して考察・検証もしていないという事実がある。
2 相手方の主張する支払期月については関係した裁判官でも疑問を呈していること
この「法の定める正当な支払期月」の検証が欠如していることの重要性は、類似事件の平成29年10月17日最高裁判決(平成29年(行ヒ)第44号、裁判所時報1686号235頁)の第一審判決である札幌地裁 平成28年4月19日の判決文(乙第38号証)において、「原告が障害年金の裁定の請求をした平成23年6月30日までに、その本来の各支払期月から5年を経過していたため、支分権たる受給権の消滅時効の起算点がその本来の各支払期月である限り、その権利は時効によって消滅しており、原告は、本件不支給部分に係る障害年金の支給を受ける権利(支分権たる受給権)を有しないということとなる。」と述べられており、この事件の裁判官が、この事件の正しい支払期月が被告の主張する各支払期月であることに疑問を呈していることからも明らかである。
従って、この事件では、原告から、被告の主張する正しい支払期月は少なくとも裁定後である旨の主張・立証がなされておれば、主文を導き出すための理由が変わっていたはずである。勿論、判決の結果も逆転していたことになる。
既に上告受理申立て理由書において述べたように、年金法には、全ての場合に適用できるように支払期月が定められている(これは確定期限である)のであるから、権利を行使することができる時は、期限の到来した時(甲第33号証、327頁)となり、原審のいうように各支払期月の到来によって支分権の消滅時効が進行することとはならない。
第2 老齢年金と障害年金の違いの証明の補充について
1 老齢年金には裁定に裁量権は存在しないが障害年金には裁定に裁量権が存在すること
本件精神の障害では、裁定に裁量権が存在するため「裁定請求=裁定」の関係にない。相手方の主張に従って障害年金についても裁定前に時効消滅させるには、少なくとも裁定に裁量権が存在せず、裁定請求時に必ず裁定されることが分かっている必要があるが、それは、請求者のみならず誰にも分からない。
裁定に裁量権の存在することは既に証明済みであるが、最近、裁定に裁量権のあることが証明できる事実行為が明らかとなったので、これについて主張を補充する。
障害年金の裁定をする処分庁は、現在厚生労働大臣である。この厚生労働大臣(事務局)が、障害等級の認定について、障害者団体(全国心臓病の子どもを守る会)と交渉をした(甲第52号証の1、甲第52号証の2)というのであるから、この事実は、障害年金の裁定には裁量権のあることを裏付けるものである。
また、中日新聞の記事「矛盾だらけの障害年金」(甲第52号証の3)では、同じ原因による打ち切り問題に対して、厚労省は「さかのぼって支給を開始する方針を明らかにした。」と記載されており、このような方針の決定・公表は、裁定に裁量権がなければできないことである。
2 老齢年金には初診日も障害認定日もないが、障害年金には初診日証明義務があり裁定前には権利の発生時期すら不明であること
原審は、判決の結論の根拠として平成29円10月17日最高裁判決を法令と同様に適用(原審が引用する第一審)しているが、この裁判例では、いずれの段階の裁判においても、障害年金には初診日証明が必要で、それができないと裁定されないこと及び裁定が法定条件であり、法定条件は条件の規定が類推適用される(甲第23号証)ことを原告側が主張していない。これを主張・立証しておれば判断は変わっていたはずである。
障害年金の受給権は、他の受給要件を満たしておれば、障害認定日に発生する。その日は、基本的に初診日から1年半経過日であるので、初診日が決まらなければ確定しない。また、年金請求者が初診日であると主張しても、「〈説明事項の確認〉」(甲第53号証)が「病歴等の審査の過程で、申出のあった「初診日」が変更になる可能性があります。」と説明しているように、年金請求者が主張した初診日が「初診日」とされるとは限らない。相当因果関係のある傷病について、それより前に医師の診察を受けたことがあれば、初診日は、前へ前へと移される。
本件のような精神の傷病の場合、上記の事情により、ほとんどの年金請求者は裁定前には年金受給権発生日を認識し得ない。そのような権利が時効進行することは法律的解釈としてあり得ない。
従って、少なくとも、本件に上記の平成29年10月17日最高裁判例を適用することには、重大な法解釈誤りがある。
3 老齢年金と障害年金の違いの有無について高裁の判断が割れたままであること
本件原審は、障害年金の裁定には裁量権はないと説示し、老齢年金と障害年金の違いについても、「別異に解する理由はない」(4頁下から1行目)としている。ところが本件理由書で述べたように、福岡高裁 平成28年5月12日判決は、平成30年7月28日付け上告受理申立て理由書脚注1(27頁)で引用したように、明らかにこの違いを認めている。
原審は、明らかに制度の仕組み、建付けの異なる老齢年金と障害年金に「別異に解する理由はない」とこじ付け、障害年金についても裁定前に支分権の時効進行をさせてもおかしくないと誤った判断をしている。
しかし、これを時効進行させることは、現実の権利行使可能性がゼロのものを時効進行させていることになり、明らかに最高裁判例(昭和40年(行ツ)第100号同45年7月15日大法廷判決・民集24巻7号771頁、平成4年(オ)第701号同8年3月5日第三小法廷判決・民集5巻3号383頁)に反する事柄である。
「裁決例一覧」(甲第54号証)は、直接老齢年金と障害年金の違いを証明する資料ではないが、老齢年金と障害年金の裁定の意味するところの違いを確認できる資料として添付した。
厚生年金保険(2/7)の老齢給付では、概要欄を見ると、裁定の裁量権に関する不服は1件もない。ところが、障害給付では、この枠内で挙げられている26件の全てが、障害等級認定等裁定の裁量権に関する不服が全てである。同様のことは、国民年金(5/7)でもいえ、17件の障害基礎年金の不服内容は、全てが障害等級認定等裁定の裁量権に関する不服である。
このことから、申立人の主張が正しいことが確認できる。
原審は、主要な判決理由を、老齢年金に係る最高裁判例の判決理由を引用した平成29年10月17日判決によっているので、この違いを認めるか、認めないかによって判決結果は逆転する。
第3 原審は両立しない相反する説のある論理の一方をそれが正しいとする基礎部分の根拠を明らかにせず推論を進めていることについて
本件類似事件の判断では、高裁段階においてでさえも相反する論理の基礎部分が並立しているのが現状である。簡記すれば、老齢年金と障害年金の違い、支分権消滅時効の起算日、正しい支払期月、現実の権利行使期待可能性等である。
以下に身近な具体例を挙げる。
1 現法民法でも事案によっては主観的時効期間を採用すべきであること
名古屋高裁平成24年4月20日判決は、支分権消滅時効の起算点について、年金決定通知書が控訴人に届いた時を基準にして、民法改正施行前に(改正後は、主観的時効期間が基本)、既に主観的時効期間説を採用している。この場合、現実に置かれた控訴人の状況を吟味した上での判断であったと思われるが、この採用は、申立人(国)から上告受理申立てがされたにも拘らず、最高裁でも維持されたように妥当であった。
現行法においても障害年金、特に、本件のような精神の障害者については、この説を採用するのが妥当であると思われるが、これについて原審では十分な審議をせず誤った判断をしている。
2 NHK受信料に係る最高裁の初判断について
平成30年7月17日、最高裁第三小法廷は、約20年間請求していなかったNHK受信料について、消滅時効については、従来、民法を適用して時効消滅の有無が議論されてきたところ、特別法を優先適用して、民法は適用されず時効消滅していない(甲第55号証)との初判断を示した。
同様に考えると、年金法は、民法の適用を排除していないが、それらとは別建てで、受給権保護規定を設けている。
これについて、原審は、「国民年金法24条は、給付を受ける権利を譲渡すること、担保に供すること、差し押さえることを禁止し、(省略)、同法25条は、給付として支給を受けた金銭を標準として租税その他の公課を禁止している(省略)だけで、消滅時効に関する会計法30条及び31条の規定の適用を排除していない(省略)から、年金の受給権が重要な権利であるというだけで被控訴人が消滅時効の主張をすることが信義則に反するということはできない。」と説示する。しかし、年金法がわざわざ会計法の適用を排除する規定を設けるはずがなく、申立人は、単に重要な権利だから時効援用が信義則に反するなどとは主張していない。
時効消滅の要件事実を満たさない事案について、受給権保護規定があるにも拘らず、曖昧な基準で時効援用をするのが信義則に反するといっているのである。
原審は、年金法が会計法の規定の適用を排除していないことを理由としているが、NHK法は、民法の適用を排除していないが、今回の最高裁の初判断は、民法の適用が排除されている。特別法優先適用の思想が反映されたわけだが、その思想は、この年金法の適用についても共通する事柄である。
真面に民法を適用しても、時効消滅が完成していないないような本件について、原審の棄却理由は理由となっていない。
3 相手方が書証として提出している「本末転倒論」が結論に影響していること
ここでいう「本末転倒論」とは、「本来、時効消滅していたはずの基本権についてはこれを検討の外におき、専ら、基本権について保険者の裁定を受けていないことを支分権の消滅時効との関係で法律上の障害であるか否かを論ずること自体、本末転倒であって相当でないというべきである。」(乙第43号証、平成25年(国)第264号 裁決書、第3 当審査会の判断 2(3)エ、7頁13行目)という本件請求の妥当性を問う根本問題をいう。
これは、社会保険審査会の見解であるが、相手方もしばしば書証として提出している。
相手方は、この考え方を公に主張しているわけではないが、裁判官の心証形成には大きく影響しているようで、この考え方に基づき結論を出してしまい、その結論に導き易い曖昧な論理構成を組み立てているので、本件及び類似事件の裁判においては、重要な点(老齢年金と障害年金の違い、正しい支払期月、正当な支払期月、現実の権利行使期待可能性等)について、ほとんどの下級裁判所で区々の説示がなされているのが現状である。
これが事実であることは、相手方の主張で、なるほどと納得できるような筋が通っている主張は、この本末転倒論以外では皆無であるからである。
しかし、本末転倒論は、筋論として成り立っても、必要な立法の手続きを経ていないので、採用できないのである。
従って、本件は、労働による収入を期待し難い方々の生存に直接関わる重大な権利であり、年金法にも受給権保護規定が設けているほどの問題であるので、法律的な正否の問題において、「本末転倒論」により裁判官の心証形成がなされることはあってはならない事柄である。
4 保険者でさえ受給権を認めていなかった権利を時効消滅させるという運用実態について
ごく最近であるが、平成27年4月1日施行の初診日証明の緩和措置によって、障害年金の遡及請求が認められた事例がある。更に、事後重症とされたのは、年金事務所の手続きミスであると年金事務所の上部機関が認めた事件もある。これらはいずれも、保険者国でさえ、権利を認めていなかった事案である。
にも拘わらず、遡及5年分の支払とされたり、既に時効消滅しているから、新しい年金証書は、旧証書と交換で発行するが、実際の支払はないとの通知を受けている。
既に主張済みの事例では、審査請求の途中で保険者自らが処分変更をして遡及請求を認めた事例も同じ取扱いとなっているが、これらは保険者国が原審のような考え方を採っているからこそ行われている明らかに法に抵触する違法な運用である。
原審は、時効進行には、現実の権利行使可能性を必要とするという見解を採っているが、これらの事案では、いずれも実際の権利行使可能性はゼロである。
5 申立人の主張は「独自の見解」ではないことについて
先ず、甲第56号証及び甲第57号証を示す。この両資料の関係は、甲第56号証のアシの会の主宰者は、甲第57号証の請求人であると思われる。これが真実であるかどうかは問題ではなく、この両証拠の執筆者(以下「執筆者」という)は、年金法、民法、行政法、及び民事訴訟法にも詳しく、本件に関しては相当に研究を重ねられ、これからもその成果を積み上げていく(公的年金の支分権が、裁定前の分から前倒しで時効消滅するとの説が誤りであるであることを、具体的 総合的 完全 に証明する)ことを公表しておみえになる。
申立人の主張、考え方は、老齢年金については、相手方の考え方、運用方法をやむを得ないこととして認めていることを除けば、執筆者の主張・考え方とほとんど一致している。
甲第56号証 第3「“裁定前支分権成立説”の様々な矛盾」の1〜10で述べられていることは、全て真実を述べており、当然に、申立人の主張・見解と一致している。申立人は、その内の1及び2等の重要事項に絞って主張しているが、他の事項についても執筆者の考え方と同じである。
今までも、種々の証拠を挙げて、申立人の見解が「独自の見解」でないことを証明してきたが、甲56及び甲57の見解と申立人の主張・説明を比較すれば、執筆者は法律の専門家であり、本件類似事件について相当に研究を重ねてみえる方であるので、申立人の見解が執筆者の見解とほとんど一致していることを考えると申立人の見解が「独自の見解」でないことは明らかである。ところが、原審は正当な申立人の主張を「独自の見解」と評し、仮に、この独自の見解が誤りであれば、その根拠を明らかにすべきであるが、それをせず採用しなかった。
以上述べてきたきたことの全てが民法第318条1項の規定する「その他の法令の解釈に関する重要な事項を含むものと認められる事件」であることと結びついている。
よって、本件は上告審として受理されなければならない。
第4 結語
原審は、「その他の法令の解釈に関する重要な事項を含むものと認められる事件」に該当する重要な判断について、多数の側面で、高裁判断が割れているのであるから、これらにつき、最高裁がどのように考えているかを明らかにせず、上告審として受け付けない旨の決定(調書)を出すようなことは絶対にあってはならない事柄である。まして、縷々述べてきたように、最重要な権利に係る国の恒常的な違法に係る事案である。
従って、相手方と徹底的に議論できる機会を付与していただきたい。その議論の中で真実が明らかになるものと確信している。
また、原審の判断は法の支配を逸脱しているので、これは御庁によって正されなければならない。
以上