2018年07月21日

上告理由書(草案)分割 A


第4 原審の違法と民訴法との関係について
 原審の違法は多岐にわたるが、本件上告は、直接的には民訴法第312条第2項第6号に基づいているので、以下で、原審の手続法違反の事由のうち瑕疵の重大な事項と上記第3の違法について、民訴法関係条文との関係を述べる。
 上記の第6号の事由は、判決理由の不備(判決に理由を付せず、又は食違いがあること)をいう。
 これは、主文を導き出すための理由について、その全部若しくは一部が欠けていること、又は食違いがあることをいう。
一般的に、一番分かり易い食違いは、原審自体の前言との矛盾であるが、本件では、上記第3で示したように、攻撃と防御(原審の説示は防御ではないが、原審の説示は被上告人の主張を全面的に認めていたので、ここでは防御と表現した)がしっかりと噛み合っておらず、原審の理由が上告人の主張内容に直接応えていないものもあり、それを指摘し辛い。
また、理由の有無についても、原審は、控訴人の主張が「独自の見解」であることを判示するのみであるので、これでは理由とはいえない。
従って、下記の3点は、重大な理由不備に該当するので、理由の欠如並びに重要な食違い、及び見当違いの理由を「理由を付せず」と解し、判決への影響をできるだけ具体的に述べる。
1 障害年金の裁定に裁量権があれば主文は導けないことについて
原審は、精神障害の場合の裁定にも老齢年金同様裁量権はないと判示 した。しかし、上告人は、真実を述べかつ実務運用とも整合する証拠(甲7)を示して、これを引用し、確認行為型の裁定には裁量権があると主張している。
 上告人の引用した証拠は、これ以上確かなものはないと評価できる本件に係る最高裁判所判例解説(甲第7号証、939頁〜941頁)である。この説示は、論理的にも運用上も正しい内容が述べられている。
 ところが、原審は、被控訴人の主張とは真っ向対立するこの見解に対して、被控訴人の主張に軍配を挙げたのであるが、上告人の挙げた証拠の述べる内容を否定はしなかった。これを否定しなければ主文は導けないので、これは正しく理由不備である。
この書証は、今さら上告人がいうまでもなく、余りにも重要なものであり、権威あるものであるので、原審が別の判断をしたということは、これを否定したということだというような曖昧な態度は許されるものではないので、否定のないことは、理由を付せずに該当する。
 本件裁量権の有無によって、判決は正反対になる事柄であり、この書証は、通常、誤りは発見し辛い最高裁判所判例解説であるので、原審の判断が正しいとするのであれば、本件の場合には、少なくとも、この証拠の述べる部分の、どこがどのように誤っているのかを示さなければ、民訴法上の判決理由とはいい難い。
上告人の主張している内容はこの重要な最高裁判所判例解説(甲7、939頁〜941頁)と同じ趣旨であるので、これを否定しない限り、主文は導き出せない。甲7は、正しいことを述べているので、原審裁判官は否定できなかったものと思われる。
 なお、善意に解釈すれば、「受給権の発生要件が確認の対象であること、及び初診日及び障害の状態が確認されない事例があるとしても裁定に裁量権はない」とした部分が、具体的な判決理由と取れないこともないが、これは、控訴人の主張に的確に対応しておらず、上告人の挙げた証拠の述べる内容を否定もしていない。本件については、甲7の説示を否定しない限り、原審の説示が正しいとはいえない。
 もう少し具体的に精神の障害の障害認定に係る裁量権について考察する。精神の障害については、障害認定基準(参考1)のほかに、ガイドライン(甲6)が設けられている。これには障害等級の目安[表1]が掲げられているが、なおかつ、《留意事項》には、「障害等級の目安は、総合評価の参考とするが、個々の等級認定は診断書等に記載される他の要素も含めて総合的に評価されるものである」旨の記載がある。
 度重なる総合評価による障害等級認定を「裁量」といわずして、何を「裁量」というのか。裁判所により、なおかつ、裁定の裁量権を否定されるのであれば、国語の意味についても裁判で争わねばならなくなってしまう。
 偶然のことであるが、上告人が引用した最高裁判所判例解説(甲7)は、本件控訴審の川神裕裁判長が最高裁判所の調査官時代に書かれたものである。原審を確定するのに、同氏だけが反対意見を述べ、右陪審や左陪審の裁判官がその反対意見に同意しなかったなどということは考えられず、全員一致での判決であると思われるので、その点でも裁判長自らの過去の信条とも食違いを生じている。
2 裁定が支分権発生の法定条件であること(判決3頁4行目)を否定していないことについて
 上告人は、上記表題の法定条件の議論の前提として、条件未成就の債権が時効進行し、時効が完成することはない旨主張している。そして、それは法律家の誰もが認める絶対的な真実(民訴法第179条にいう顕著な事実)である。
続いて、初診日証明を含む障害年金の裁定は、法定条件であり(原審のいうように「と解釈できる)ではない)、法定条件は条件の規定が類推適用される(第3の2(4)ア、13頁1行目)ものであると、確かな書証(甲第23号証)を提出して主張しているのである。このことも、我が国最上級の民法学者が公にしている基本的なところであるので、これを否定しなければ主文は逆転するが、原審は、これを否定していない。
加えて、原審は、権利行使には。現実的期待可能性が必要であることを認めている。判決では、「…、裁定の請求をしさえすれば、法律の定めるところに従った内容の裁定を受けて支分権を行使することができることとなるのであるから、…」(5頁1行目)及び「民法166条1項にいう「権利を行使することができる時」とは、単にその権利の行使につき法律上の障害がないというだけではなく、さらに権利の性質上その権利行使が現実に期待できるものであることも必要であると解するのが相当である」(5頁下から9行目)との説示であるので、原審は、上告人の主張した「権利行使の現実的行使可能性」(平成29年5月22日付け準備書面(1)5頁2行目〜8頁4行目)を否定していない。
仮に上記の「権利行使の現実的行使可能性」を否定していたとしても、これに関しては、「単に権利行使につき法律上の障害がないというだけではなく、さらに権利の性質上、その権利行使が現実に期待できることをも必要とするのが相当である」(最高裁昭和40年(行ツ)第100号同45年7月15日大法廷判決・民集24巻7号771頁、最高裁平成4年(オ)第701号同8年3月5日第3小法廷判決・民集50巻3号383頁)旨の最高裁判例があるので、これは無視できない。
そうすると、法定条件は条件の規定が類推適用されるので、その法定条件である裁定が、裁定前の状態では法律上の障害となり、原審の説示は、論理法則にも経験則にも反することとなる。
従って、原審の理由は、民訴法上の理由を付したとはいえない。
3 支払期月の解釈誤りを検討もしていなかったことについて
 本件第一審は、上告人が重要な点であると主張している法36条の3項ただし書の規定について、関連法令にも挙げていない。この点原審は、第一審を引用しているので、原審も同様である。
本件について、正しい支払期月の解釈は、最も重要な点である。この点、期限の未到来は、最も一般的な法律上の障碍である。これも上記1同様、絶対的な真実(顕著な事実)である。
しかし、原審はこれに理由を付さないだけではなく、重要な事項であるとの認識もしていなかった。
 関連法令として、一部を掲載しながら、ただし書を記載しなかったのであるから、これについて検討もしていなかったことは明らかであり、これを認識すれば判決は逆転するところ、認識もせず、当然に理由も付さなかった。これが「理由を付せず」に該当することは、説明を要しない。
4 厚生労働省発表の顕著な事実との食違いについて
 本件障害年金の障害等級認定においては、障害基礎年金についてではあるが、厚生労働省(以下「厚労省」という)が障害等級認定に地域差があり、平成22年度〜平成24年度平均で12.5%の不支給のあったこと、及びその格差は最大6倍強に達していたことを平成27年1月14日に公表(参考10)している。
 厚労省が、上記の地域格差等を認定医による判断の相違を原因と認め、平成29年4月から、障害基礎年金においても東京の障害年金センターが一元的に審査決定することに改善した事実からも、原審のいう「裁定に裁量権はない」との判断は、これらの顕著な事実に反する。
 これには、後日談があり、平成30年7月4日(水)、一元的審査により、障害年金の打ち切り問題が発生してしまった。これについて、全国心臓病の子どもを守る会が、厚労省と折衝をしており、厚労省が一定の回答を出し、これについて厚生労働大臣が国会(厚生労働委員会)で答弁をしている(参考10の1、本文4行目、参考11の2、本文1行目)。従って、厚生労働大臣及び事務方も裁定に裁量権のあることを認識していることに間違いはない。
従って、原審の判断は上記の顕著な事実と食い違っている。
5 採証法則違背について
 本件の特徴は、争点が法律的な解釈の正否であるところにある。そして、その中心的なテーマは、判決を正反対にするほどの影響力を持つ、「障害年金における裁定の裁量権の有無」、「裁定の法定条件該当性」、及び「年金法の定める支払期月の期限の定めの有無」である。
 これらについて上告人の挙げた証拠は、判決を逆転させるほど重大なものである。民訴法第247条の自由心証主義には、一定の合理的な限界がある。本来は、提出された証拠価値の大小を考慮しながら適切に評価して合理的に心証を得るべきところ、証拠価値が高いはずのもの(甲7)を適切に評価せず、逆に、証拠価値が決定的に高いものでないもの(事案の異なる今回最高裁判例)を過大評価したのは、心証の採り方として不合理である。

第5 御庁が内簡による運用を認めることは、実質的には司法による立法権の侵害に当たること 
 以上のとおり、法律的解釈に従えば、原判決は違法であり、本件支分権は時効消滅していない。
 基本権の消滅時効の援用をしないことは、国民の権利を制限するものではなく、行政の判断で特別な行政措置として許されることである。しかし、その逆の場合は、詰まり、既に具体化した個人の権利を制限するような支分権の支給を、裁定請求時を基準に遡及5年間に制限するような場合(内簡(甲1)による運用)は、立法の手続きなくしてでき得ない。
このような行政当局の違法を最高裁が許していたら、不合理な運用は永久に正されることはなく、司法による立法権の侵害が限りなく続くこととなってしまう。

第6 本件の不具合は、司法機関においては、最高裁以外に修正できないことについて
 本件第一審の受任弁護士も、他の多くの弁護士も、例え、身体(左下腿切断)の障害といえども、今回最高裁判例が出てしまった以上、裁定前に支分権の時効が進行し得ることを最高裁が判断したことには変わりないので、下級審の裁判官にこれに反する判決を求めることは不可能に近い旨認識している。
 そして、現実に、それ以降の類似裁判では、窓口での明らかな取扱い誤り等特段の事情のある事案を除き、少なくとも4件以上が、今回最高裁判例と同様の判決理由で下されている。
 しかし、これは縷々述べてきたように法律解釈を根本から誤った判決であり、経済的な事情により、上告を断念したケースもあり、気の毒な状況となっている。
これを機に貴庁のお力であるべき姿に修正をしていただきたい。
甲第4号証判決の上告受理申立て事件である平成26年(行ヒ)第259号の決定後、厚労省では、従来の運用を改正すべきかどうかの検討のための会議を開いた。しかし、この会議の結論は、平成24年4月20日付け名古屋高裁の判決は間違っており、最高裁が認めたのは、民法第158条1項の類推解釈等についてであり、法解釈誤りの部分ではないとの結論で、運用改正をしなかった。
 ところが、この運用は、法解釈の根本部分からして間違っていた。矛盾だらけであり、不合理が甚だしい。今回最高裁判例を事案の異なる精神の障害についてまで適用することは、あるべき姿ではなく、社会的な影響も含め実害も大きいので、判例変更を要する。ご英断を期待する。
 なお、平成26年(行ヒ)第259号の決定までには、約2年間を要しており、3か月や半年とは、わけが違う。その間に相手方からは、法解釈違反に関して、意見書を2通、反論書等を3通提出している。この主張内容に矛盾があれば、異なった結論となっていたはずだから、この保険者国からの上告受理申立てを受け付けなかったのは、内容を十分検討した結果であると思われる。
本項に関しては、分類の仕方によって差は生じるが、原審には大綱以下のような弁解し難い重大な法解釈誤りがある。重複を避けるため詳述は割愛するが、上告人の主張に従えば、これらの矛盾は、全て一挙に解決する。
 基本権と支分権を混同していること及び障害年金ではその混同が許されるべき理由がないこと
 確認行為型の行政処分(裁定)を当然発生型のそれと混同していること。これは、日常業務の裁定の業務にも影響している
 年金法の支払期月の規定を期限の定めのない債権として取り扱っていること
 障害年金の裁定が法定条件であることを無視していること
 未だ消滅時効が完成していない時点で、完成後初めて適用できる会計法第31条後段(援用を要せず)の規定を適用していること
 時効中断の機会もない債権を時効消滅させていること

第7 結語
原審を正しいこととすれば、少なくとも精神の障害においては、現実の問題として、裁定請求もできず、時効中断もできない状態において、障害年金の支分権の進行と完成を認めることになってしまう。
これは、あってはならないことであるので、精神障害者の惨状に目を向け、今回最高裁判例を修正していただきたい。
本件については、著明最高裁判例及今回最高裁判例が判決の前提としている条件が成り立たないのである。規定の明確性、裁定の必然性、及び法36条所定の支払期の到来性の一つをも満たさない。
具体的には、原審では、「確認行為型」の裁定を、「当然発生型」の裁定として判決を下しており、これが、正しい解釈である「確認行為型」と認識されておれば、裁定には既に存在する権利に影響を及ぼすことができる裁量権があることになるので、主文を導き出す理由に食違いが生じているから結論は逆転する。
一方、社会的妥当性の面については、上告人はこの障害のため20年以上も辛苦を重ねてきた者であり、片や被上告人は福祉行政を担う国である。その国が、本来時効消滅していない障害年金を支給せず利得してしまうなどということは、到底許されることではない。
この誤った現在の運用が続けられることで、同じく国の機関である下級裁判所では、国に忖度した不公平な判決が出されており、裁判所への信頼や権威を著しく低下させている。3権分立とはいうものの、下級裁判所が同じ国の機関の味方をするのは、やむをえないこととして、それは国民の目に留まらない範囲で行う必要がある。
御庁に置かれましては、第5及び第6で述べた由々しき事態を法律的解釈において解消していただきたい。
以上

posted by 326261(身にロクに無い:身に付いていない:電話番号!!) at 15:36| Comment(0) | 1 障害年金
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: