2018年04月14日

重要な論点を避けた名古屋高裁判決


勿論、障害年金支分権消滅時効事件についてであるが、一昨昨日4月11日(水)の名古屋高裁判決には大きな期待をしていたが、重要な論点については軽く去なされてしまった。担当裁判長が行政事件についても、公平な判決を下すことで有名な方であったので、期待していたが、それでも2勝目の実績を上げることができなかった。残念でならない。

高裁において、異例の 5 回目期日を設けていただいたので、ほぼ(あくまで、「ほぼ」である)当方の主張は言い尽くしたが、矢張り、議論が尽くされておらず、かつ身体(左下腿切断)の障害といえども、「裁定前でも支分権消滅時効が進行する」との判例が最高裁において出されてしまった現在、その点を含めた根本問題について、下級審裁判官に最高裁判例に反する判決を出させることは相当に難しいことと言わざるを得ない。

しかし、本論に入る前に、今回の判決の勝負の分かれ目について述べる。

「控訴人は、精神疾患への罹患を認識すること及びそれが障害年金の受給要件に該当することを自ら認識することが困難な精神障害者にとって、自主的に裁定請求を行うことを期待することは困難である場合が多いから、控訴人には権利行使の現実的期待可能性がなく、これが法律上の障害に当たると主張する。
 この点、民法166条の「権利を行使することができる時」の解釈においては、単にその権利の行使につき法律上の障害がないというだけではなく、さらに権利の性質上、その権利行使が現実に期待できるものであることをも必要とすると解するのが相当であるところ( 最高裁昭和40年(行ツ)第100号同45年7月15日大法廷判決・民集24巻7号771頁、最高裁平成4年(オ)第701号同8年3月5日第三小法廷判決・民集50巻3号383頁参照)、平成19年改正後の国民年金法においても、支分権の時効については従前どおり会計法及び民法166条の規定を適用する余地はあるから、控訴人の病状が上記主張の程度に至っていたと認められる場合は、消滅時効は進行しないと解すべきである。」(12頁下から9行目)

「そこで、支分権に関する時効が完成し始める前の控訴人の病状について検討するに、… 、少なくともこの間は控訴人の病状が上記の程度に至っていたとは認め難い。
 次に、本件不支給分の時効期間が満了し始めた平成26年2月頃から平成27年2月頃の控訴人の病状を検討すると、… 、また、控訴人は、自ら判断で精神科に定期的に通院し自己の精神疾患を認識した上で仕事も行いつつ生活していた上、平成28年には保佐開始の審判を受けているのであるから、それ前においても一定の判断能力は有していたものと認められる。そうすると、平成26年2月ないし平成27年2月当時、控訴人の病状の程度が、継続して裁定請求すらできない状態にあったとは認められない。」(13頁8行目)

とされたのである。詰まり、本件では、控訴人は裁定請求をすることにより国民年金法の定めるところの内容に従った裁定を受けて、障害年金の支給を受けることが現実に期待できる状態にあったと認められるから、控訴人の上記主張は前提となる事実に誤りがあるとされたのであって、当時の病状及び障害の状態が裁定請求をすることができないような状態であると認められていれば結論は逆転していたのである。

以上は頭の片隅に置いておいていただければ良い話であるが、私が最も論点として審議してほしかったのは、法定条件は条件の規定が類推適用されること及び期限の定めのある債権は、期限の到来が「権利を行使することができる時」であるという民法の根本的解釈の正否の問題である。

前者については、条件未成就の話であり、後者については、期限未到来の話である。いずれも被控訴人も認めている法律上の障害の論点である。ここで、ほとんどの専門家にも見逃されている当たり前の解釈論に立ち返る必要がある。

年金の支払期月には、必ず期限があるという事実である。裁定前の期限は、不確定期限であり、裁定後の期限は、確定期限である。例え、不確定期限についても、「期限の到来日」が「権利を行使することができる時」であるのである。(注釈民法(5)総則(5)川島武宜 282頁6行目、有斐閣 平成25年1月20日復刊版第1刷参照)

これを、期限の定めのない債権の場合の解釈である「権利を行使することができる時」からとしていること自体、解釈の前提を誤っているのである。

ところがこれらについては、「その他、控訴人は、縷々主張するが、いずれも理由があるとは認められない。」と軽く去されてしまったのである。

この最重要事項につき、被控訴人は反論をしないのであるから、正に擬制自白である。これは、裁判所として見逃すことが許されない内容であるが、「いずれも理由がない」と一言で片付けられてしまっているのが現実である。

今回の判決結果については、G 法律事務所の G 弁護士は前々から下級裁判所の裁判官に最高裁判決に反する判決を求めることは無理である旨認識してみえたので、 この考え方自体については私も同じ考えを持っていたものであり、今回の判決も、その点からは、やむを得ないものと抵抗なく受け入れている。

それでは論理法則や経験則に反する法律的解釈を止めさせることができないのかを検討した場合、全く方法がない訳ではない。しかし、純粋に司法の領域だけからの解決が難しくなってきていることは否定できない。正に、絶望の裁判所である。

残された道の一つは、最高裁の良識に訴え、丁寧に説明し、大法廷でもって前掲の平成29年10月17日の判例とするには余りにも不適当な最高裁判例を修正していただくことであり、今一つは、厚生労働大臣への異議申立て等により、違法の大きさを、再認識させる等、当局のキーマン等に改善の必要性を自覚させることであると考える。

このいずれの方法も、並大抵の努力でできることではないが、当面、異議申立てを正当に受理させ、審議させるためには、これを閉ざす行為は、論外の違法であるので、司法以外の力もお借りする積りである。
posted by 326261(身にロクに無い:身に付いていない:電話番号!!) at 11:40| Comment(0) | 1 障害年金
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