2018年02月03日
身体の障害にも通用する障害年金支分権消滅時効未完成理由について
平成29年10月17日の左下腿切断の障害に係る最高裁判例が出され、この影響は余りにも大きく、私が関係する裁判だけでも平成29年11月17日の大阪高裁と29年11月30日の東京地裁と立て続けに精神の障害についてまで潜在的抽象的観念論を認めた判決が出され、流石に、気の強い私も気落ちしていたが、平成30年2月1日付で後者の判決に対する控訴理由書を過日東京高裁に提出した。
この内容は、第10にまで及ぶ長いものであるが、その一部について以下で紹介させていただく。これは、裁定が停止条件である旨の補充主張であるが、講学的見地からも一般論としていえることであるので、私同様気落ちしてみえた身体の障害に係るお客様にも勇気を与えたく敢えて公開するものである。
一口で言うと、障害年金においては、初診日証明が受給権者に義務付けられており、これを含む裁定は、法定条件であり、法定条件は条件の規定が類推適用される、という内容である。
第1 はじめに
1 自ら判断しない原審について
控訴人は、被控訴人の障害年金支分権消滅時効に係る誤った運用に対して、平成19年10月4日付の厚生労働大臣舛添要一様を皮切りに関係するあらゆる機関等に対して不当を訴え続け、最終的には、裁判所に対して法律的解釈を求めてきたところであるが、原審においては、結論ありきの政治的判断が行われ、東京地裁は事案の異なる最高裁判決を適用しただけで何も判断していなかった。
政治的判断を知りたいのであれば政治家に聞き、その結果を出したいのであれば政治家に依頼する。この重要な権利について又は行政のあるべき姿について裁判所が真剣に考えていなかったことが残念でならない。
これでは、瀬木比呂志教授に言わせれば、正に「絶望の裁判所」の実体である。
2 避けて通れない決定的事項について
原審における被告の主張も原審の説示も、障害年金について考えた場合虚構と化している。しかし、反省してみれば、原告側が、虚構が通る程度の主張しかしてこなかったともいえる。
従って、控訴審では、虚構が通用しないほどの決定的主張として、以下の3点を主張補充する。
@ 本村年金訴訟上告審判例解説(甲第7号証)は、判例そのものよりも最高裁の考え方を的確に表現していること
A 初診日主義の根幹をなす初診日証明義務が裁定請求者にあり、初診日証明を含む裁定が法定条件であり、法定条件は、条件の規定が類推適用されること
B 原告の主張が採用されなかった根幹には、保険者国が基本権について時効の援用権を放棄している事実があると思われるが、その対策とされた内簡による運用が立法の手続きを経ていなかったこと
3 控訴審での主張の基本方針
原審での原告の代理人が失職し、原告を補佐する立場の者が本件補佐人に替ったので、従来の主張との相違点について予め明らかにしておく。
基本的に、下記の3点を除き、今までの主張を引用する。(カッコ内は、下記項目を除いた理由)
(1) 平成29年5月22日準備書面(1)第2 「信義則違反にかかる主張の補充・追加」の、失踪宣告に係る運用変更に関する主張(直接関係しないため)
(2) 同上第5の2(4)ウの主張部分、及び乙第16号証乃至乙第18号証の国民通算老齢年金の事案に対する判決を否定する主張(控訴人の主張内容とは別の側面で判決理由とされている部分については道理が通っており、結果この事件については、支分権消滅時効の完成を認めるのが妥当と思われるため)
(3) 平成29年7月20日準備書面(2)第2の2「労災保険給付に係る昭和29年11月26日最高裁判例を引用した主張」(事案が異なり、制度の目的・仕組みが異なるため)
第3 原審の違法(争点1)について
1 事実誤認に基づく判断誤りについて
同じ年金支分権消滅時効の問題でも、老齢年金と障害年金(特に精神の障害についてはなお更)では、裁定に一定の裁量権があるので、事情・事実が明らかに異なるが、原審はこれを吟味することなく、同じであると誤判断して、今回最高裁判例を適用して、本件請求を棄却した。
老齢年金の場合であれば、著名判例である平成7年11月7日判決の通算老齢年金の最高裁判例(以下「本村年金訴訟上告審判例」という)が述べている事実を認めることができるが、障害年金の場合は、事情・事実が異なるので、ここで述べられている内容は、障害年金にそのまま当て嵌まるものではない。
原審の違法は、保険事故自体の客観性の面では、老齢年金と酷似している今回最高裁判例を吟味なくそのまま適用したところにある。
原審の判決理由では、「障害年金を受ける権利の発生要件やその支給時期、金額等については、厚生年金保険法に明確な規定が設けられており、裁定は、受給権者の請求に基づいて上記発生要件の存在等を公権的に確認するものにすぎない」、及び「受給権者は、裁定の請求をすることにより、同法の定めるところに従った内容の裁定を受けて障害年金の支給を受けられることとなる」と判示するが、これは事実誤認であり、本件精神の障害では、そのいずれについても理由に必然性がない。しかも、今回最高裁判例の第一審判決では、原告の主張する支払期月を正しいものであると断定している訳ではない。
2 法律的解釈の誤りについて
原審は、上記のように問題点の把握も、何の判断もしていないので、次の重要項目について、法律的判断をしていない。
(1) 確認行為型の裁定は確認行為にすぎないとはいえないこと
(2) 正しい支払期月は、本来の各支払期月ではないこと
(3) 裁定は行政処分であるので行政処分の前には支分権は発生せず法律上有効でないこと
(4) 裁定は、法定条件であり、法定条件は条件の規定が類推適用されること
以下、順に原審の誤りについて説明する。
(1) 確認行為型の裁定は確認行為にすぎないとはいえないこと
原審の判断は、本村年金訴訟上告審判例に係る最高裁判所判例解説(甲第7号証)が示す、真実を述べ、合理的で、かつ実務運用とも合致した説示に反するものである。
上記判例解説では、国年法第16条の裁定は、確認行為型の裁定であり、行政庁の認定、決定、裁定等の確認行為によって初めて具体的な権利を発生させることとしている。
その立法政策は、現行制度上、@「形成行為型」、A「確認行為型」、及びB「当然発生型」の3類型に分類している。
社会保険関係給付の受給権が実体法上いつどのようにして発生するかは、その性質から当然に導き出されるものではなく、結局、立法政策により決せられるものであるとしており、当然発生型の説明内容を反対解釈すれば、確認行為型の裁定には、「既に発生している権利等に変動を及ぼすことができる」旨説示していることとなる。
ところが、原審の判断は、同法16条の裁定を、被控訴人の誤った主張を認め「当然発生型」と誤認しており、結果、行政処分性のある裁定を、単なる確認行為であるとして、実際には申立人が権利行使する機会さえなかった、基本権発生月の翌月の初日を最初の支分権消滅時効の起算日とする等の誤った判決を下した。
原審は、本村年金訴訟上告審判例そのものの通算老齢年金及び今回最高裁判例の説示内容そのものの表現を引用しているが、これは少なくとも本件のような精神障害については当て嵌まらない。
控訴人は、最高裁ともなれば、公正・公平な判断を下すものと信じているが、一般的には、本件に関する最高裁の考え方を含め、判例そものもの表現よりも、判例解説の方が良く分かると言われている。
原審においては、おそらく、最高裁判例の既判力等を考慮しての判断と思われるが、最高裁判例といえども、事案の異なる事件について適用することは許されないことである。
(2)正しい支払期月は、本来の各支払期月ではないことについて
障害年金の裁定手続では、初診日が決まらなければ、それ以降の事柄は何一つとっても一歩も進まない。基本的に、障害認定日及び各支払期月は、被控訴人が考えているように、初診日さえ決まれば、当然にやってくる。しかし、初診日が決まらなければ、被控訴人が弁済期(支払期月)と主張する各支払期月も到来しない。
ア 権威ある文献も正しい支払期月を裁定前後で区別していることについて
このことにより、社会保険関係訴訟の実務 法務省訟務局内社会保険関係訟務実務研究会編(甲第5号証、252頁左から2列目)が述べる、「国年法及び厚年法上の年金の支分権の消滅時効の起算点も右の原則に従い、裁定後の分については各支払期月の到来の時であるが、裁定前に支払期が到来したものについては裁定時(ただし、初日不算入)が起算点となる。」との記載が真実であることが確認できる。
この研究会の会員は、本件に係る実務につき、法務省の指定代理人に対して、指導・支援、サービス・監督等を行う管理機関の中枢において実務をされている方々である。
その方々が真実を述べているのに対して、どうしていわば現場の指定代理人がこれに反する行為が採れるのであろうか。残念ながら、国に不利益になることは黒いものを白といってでも阻止するのが国(行政)の体質なのであろうか。行政の組織というのは不思議なもので、控訴人には理解できない。
イ 今回最高裁判例の第一審判決においても正しい支払期月を問題視していることについて
今回最高裁判例の第一審である(乙第38号証)は、この弁済期(支払期月)についても問題意識を持っており、「…、支分権たる受給権の消滅時効の起算点がその本来の各支払期日である限り、その権利は時効によって消滅しており、…」(11頁2行目)と条件を付けて判決理由としている。
この事件の原告は、これについて異議を主張していなかったようであるが、本件控訴人は、支分権たる受給権の消滅時効の起算点がその本来の各支払期(月)日であることを否定しており、これが真実である。従って、正しい支払期月を本来の各支払期と認めた、今回最高裁判例もこれを準法規的に適用することは、以上のとおり大きな問題点を残すこととなる。
この研究会の会員は、社会保険関係訟務実務の行政側の人材としては我が国最高の実務能力を備えた方たちが構成員であり、発刊当時は、法務省訟務局行政訟務第二課長の高野伸氏が研究会の代表を務めてみえた。
ウ 被控訴人の「実際の支払期」と「架空の支払期」を混同した2面性のある主張は筋が通らないことについて
被控訴人は、「したがって、支分権の消滅時効の起算点は、基本権の裁定の有無にかかわらず各支払期である。」(平成29年7月20日付被告第2準備書面、6頁9行目)と主張し、原審もこれを認めているが、既述のとおり、初診日証明を含む裁定前に、各支払期が到来することは絶対にない。
このように実態を述べれば、以上述べてきたことが、文字どおりの停止条件でないとしても、論理法則や経験則に従えば、支分権の消滅時効が裁定前に進行することはあり得ないことを証明していることになる。
エ 条件の成就は支分権発生・時効進行の絶対条件であることについて
別の側面では、条件未成就の債権に弁済期(支払期月)が到来することは絶対にない。被控訴人及び原審は前提条件を誤認しているので、自身が時効進行上の法律上の障碍と認めている事実についてさえ、法を誤って適用しているのである。
従って、結論として障害年金の支分権が裁定請求前に時効消滅するなどということは、法律的解釈としては絶対にあり得ないのである。
(3) 裁定は行政処分であるので行政処分の前には支分権は発生せず法律上有効でないこと
裁定が行政処分であることは、甲第7号証においても、原告の求釈明に対する被告の回答においても明らかである。支分権の発生は、行政処分の後でなければあり得ず、裁定が行政処分であるからこそ、その後3ヵ月以内に社会保険審査官及び社会保険審査会法(以下「官会法」という)による審査請求ができるのである。
(4) 裁定は、法定条件であり、法定条件は条件の規定が類推適用されること
控訴人は、従来、障害年金の支分権が停止条件付債権であることの証明のために、障害年金の裁定の内容には障害等級認定等があることを前提として停止条件である旨の説明をしてきた。
しかし、この障害等級認定(裁定)は、被控訴人において行われていることであり、かつ、場合によっては、請求者の請求どおりに認められることもある事例であったので分かり辛い事例提示であった。従って、今回これを万事に当て嵌まる初診日証明義務を含む裁定として説明を加える。
ア 法定条件は条件の規定が類推適用されることについて
障害年金の支分権が間違いなく停止条件付債権であることは、裁定が法定条件(国年法第16条)であり、「法定条件」は、「条件」の規定が類推適用される(甲第23号証、297頁8行目)ことから説明が付く。そして、その内容の一部である初診日証明も裁定請求者(受給権者)に義務付けられている。
初診日が決定しないとその後のことは一歩も前へ進まないことで普遍の真理として証明できる。従って、障害年金の裁定は、被控訴人や原審がいうように単なる確認行為ではない。
契約の類型と比較して考察した場合も、裁定請求と裁定は、申込みと承諾の要式との関係と同じであり、別の側面から考察した場合でも、初診日証明ができていない状態は、法律行為に追完・追認を要する状態、詰り、法律行為の効力が発生していない状態であるので、裁定の前には支分権は、法律上有効となっていない。有効となっていない支分権について、消滅時効が進行することはない。
障害年金を受給するには、3つの要件が必要不可欠である。これを簡記すれば次の3要件である。
@ 被保険者期間中に初診日があること(20歳前障害は例外あり)
A 一定の期間において国年令別表又は厚年例別表1の定める障害の状態にあること(この一定の期間にも、初診日は必ず絡む。)
B 初診日の前日において保険料納付要件を満たすこと(20歳前障害は例外あり)
被控訴人のように、初診日を除いて考えれば、各支払期月の到来によって、その翌月の初日に、支分権消滅時効の進行が始まるという考え方が出てきてしまうが、実際には、そのような事態は、絶対に起こり得ない。
しかも、初診日は、裁定請求者(受給権者)に証明義務(甲第24号証、裁定請求書に記載し、医証等の提出義務がある)がある。それができなくて、障害年金の請求自体を諦めざるを得なかった人はあまた居る。
東京地裁平成27年4月24日判決の事件(甲第25号証)、では、原告は平成10年10月9日の敬愛病院での初診日を主張し、障害厚生年金の裁定請求をしたが、同病院の経営者が替わっており、医証が取れず、平成12年12月31日に日大板橋病院での初診即入院日を初診日とされ、社会保険審査会により一方的に障害基礎年金の事後重症とされてしまった事件である。また、甲第26号証の3枚は、初診日の病院は存続していたが、受診記録がなく、その病院が初診日証明を書いてくれなかったので、十数年間という長い間、無年金で生活してきた人が初診日証明緩和施策の適用により障害基礎年金の事後重症の認定を受けた事例である。
この現実を見れば、障害年金請求上の裁定(初診日証明を含む)が障害年金支分権発生の停止条件である(以下この考え方を「停止条件付債権説」という)ことは明らかであり、これは万人が認めなければならない事実である。
これは、名称や形式のことではなく、法定条件は条件に関する規定が類推適用されることになっている(甲第23号証、297頁8行目)ことから明らかである。
イ 要件の充足は少なくとも裁定請求時で判断すべきことについて
これを時系列で考察すれば、初診日の証明は裁定請求前に行われることは絶対になく、裁定請求前にこの条件が成就することは絶対にない。
本件のような重度の精神障害については、発症初期の段階では、病名すら特定されないことや初診日が何時であるかも特定できないことが多いし、本人がその時に裁定請求をすることなど思い付くことはできない。このような事情の場合は、裁定請求者が初診日証明という義務を果せないことが多い。このような主張は今まで誰一人として主張してこなかった主張であるが、これは独自の主張とはいえず、この事実は万人が認めざるを得ない事実である。
ウ 老齢年金と障害年金の違いについて
本件補佐人が老齢年金について被控訴人の曲論をやむを得ないものとしている理由の一つは(他の理由は、老齢年金においては、保険事故自体の客観性、裁定請求すれば必ず受給に結び付くこと、及び保険者が失権防止に相当の努力をしていること等である)、老齢年金の裁定には、以上述べてきた初診日証明義務がないことがある。
以上のように、老齢年金と 障害年金の違いは明らかであるが、 原審では、今回最高裁判例を吟味なく適用しただけで、何の考察もされていない。老齢年金にしか適用できない最高裁判例を適用し、結果、ほとんどの裁判所で間違った判決を下してきたが、以上の説明から、老齢年金と障害年金の違いは明らかである。
エ 講学上の検証について
この裁定という停止条件は、法定条件であるので、運用上のみならず、法制上も老齢年金と障害年金の違いを確認できる。
法定条件は、民法概論1 民法総則 川井健(甲第23号証)が述べる(297頁8行目)ように文字通りの条件ではない、しかし、法定条件にも、条件に関する規定が類推適用されることから、この控訴人の主張は、独自の見解ではなく、真理を述べたものである。
また、条件付債権の保護に関しては、条件成就の妨害の要件の内、「故意」(甲第23号証、300頁下から15行目)については、時効消滅という事実については該当しないが、時効の援用については、「故意」が存在し、これにも該当することとなる。
この点については、 障害年金には年金法による受給権保護規定があるので、この権利は国民の最も重要な権利であることは明白である。従って、被控訴人が、条件が成就する前に、この規定による時効の援用をすることは、信義則に反し違法である。
控訴人は、被控訴人の消滅時効が完成しているとする主張が、障害年金については論理に飛躍があり誤っていること、及び幾つもの理由を述べて、本件支分権は完成していないと主張・説明しているのであるが、この真実を中々分かっていただけないでいる。
従って、今回、障害年金の裁定請求及び裁定には双方が避けて通れない初診日証明について。これが法定条件であり、法定条件は条件の規定が類推適用されると主張の補充をした。名称や形式を問わず、初診日証明前に支分権の法律的効果は生ぜず、消滅時効が進行し、時効が完成することはあり得ないことを重ねて強調する。
posted by 326261(身にロクに無い:身に付いていない:電話番号!!) at 12:29| Comment(0)
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