昨日は、愛知県社労士会による「補佐人シンポジウム」に参加してきた。帰宅後ブログを更新する予定であったが、その後の懇親会にも参加した等で、2週続けて日曜日の更新になってしまった。
初めに、愛知県弁護士会副会長の長谷川ふき子先生に基調講演をいただき、我々5人の社労士パネリストが一人約10分間の経験談を発表した。その後、質疑応答に移ったが、本日は、主に。その10分間の私の発表内容の概要及び私の感想を含めアップした。
既に実施済みの経験回数でいうと、合計6回で、地裁1回、高裁3回、最高裁2回です。事件の内容は、いずれも国を相手方とする行政事件です。内5件は、年金支分権消滅時効の成否を争う事件であり、結果、今のところ、勝訴実績はありません。残り1件は、障害年金の裁定請求が診断書の誤記により事後重症とされたため、訂正後の診断書を提出し障害厚生年金の認定日請求を求めた事件です。これについては、控訴審から受任したが、判決はまだ出ていません。
未実施の事件では、セクハラ・パワハラの労働者側からの事件につき、あっせんに入った場合の代理人、及び訴訟になってしまった場合の補佐人の業務につき受任しています。これについては、事前の話し合いを2回程度予定しており、1回は、相談・指導業務の立会人としての立場で、相手側受任弁護士及び会社代表1名と初回の話し合いを済ませています。
初回は、話し合いというより、この時の弁護士は、代理人というよりは使者の役割しか果たしておらず、当方の質問にも肝心なところで答えていませんでした。聞き取った内容を録音しながらパソコンに投入しただけです。従って、次回までに、行為者の具体的な言動について、思い出せる内容を追加した後、その資料を基に行為者等に事実関係を確認し、2回目の話し合いをすることとなりました。
私は、できればこの話し合いで解決できればこれに越したことはないと思っており、それを進め易くする要素として、裁判になった場合の補佐人まで受任しているという事実が少し役に立っているように感じました。
前者の行政事件について概要を説明すると、障害年金の遡及請求が認められた場合、裁定請求時点を基準にして遡及5年間分は支払ってもらえるが、それ以前の年金は消滅時効が完成しているとして支給されない運用になっていることが違法というものです。詰り、全期間分の年金を請求した事件です。
被告側保険者国は、受給要件等の年金法の規定は明確であり、裁定請求しさえすれば、実際に年金は支給されるのであるから、月単位で支給されている最初の支分権は、裁定請求の翌月に発生し、その消滅時効も発生月の翌月の初日に進行すると潜在的抽象的に観念することができ、以後支払期月ごとに同様としています。
従って、そこから5年が経過するごとにそれぞれ消滅時効が完成していると主張し、ほとんどの裁判所もこの国の考え方を支持しています。
しかし、この潜在的抽象的観念論は、社会保険審査会や、法務省内社会保険訟務実務研究会からも、国の考え方を否定されていますが、実際には、通知や事務連絡よりも効力は弱いとされている旧社会保険庁の3課長から発出されている内簡により上記の運用がされてしまっています。
このような一般の方たちには分かりにくい事件であるので、障害年金支分権消滅時効の問題自体が一般には広まっておらず、私の補佐人就任は、弁護士の先生からの依頼によるものではなく、私が弁護士の先生を選んでいるという特徴があります。
詳しい内容は、時間制限内には説明不能につき、以下は、補佐人としてお役立ちできた点につき、論点・争点を紹介し、聞き手の考察を促しました。
・裁定に裁量権!?
・過去分の支払期月は1回!?
・行政処分は裁定時!?
・不服申立て期間との整合性!?
・年金法の受給権保護規定(差押えや公課まで禁止)!?
・初診日証明を含む裁定が停止条件(法定条件)!?
・実際の権利行使可能性!?
・付記は単なる事実の通知か時効の援用か!?
・3課長発出の内簡による運用!?
・2020年4月施行の改正民法の明文の規定に反する!?
・民法第158条1項の類推適用等!?
この事件については、私が、成年後見人として平成24年4月20日に名古屋高裁で逆転勝訴した新聞記事を見た受給権者等から、代理人を立てて全国で訴訟が提起されていますが、本年10月17日に、最高裁が札幌高裁から上がってきた左下腿切断の障害について、判決を出したので、これ幸いと下級審の裁判官がこれを引用して、精神の障害の事件まで煽りを食っているのが現状です。
私が全く係っていない事件の突然の最高裁判決により、私が係っている事件まで大きな影響を受け不本意ですが、これは考えようで、より多く出されている精神の障害に係る上告受理申立てを選ばなかったのは、最高裁は、より簡単な方を選んだのではなく、精神の障害については、請求の可能性を残したとも考えられます。従って、私は、一刻も早く、2件目の勝訴実績をお示しできるよう日夜頑張っています。具体的には、来年の3月か4月には可能と考えています。
5名のパネリストの発表の後、コーディネーターから2点の質問がありました。
1点は、就任に当たり注意すべきこと、してはいけないことであり、2点目は、補佐人として求められる資質や技能、補佐人制度の可能性です。
後者について、基調講演後パネリストに加わった長谷川弁護士は、怒りが必要であり、粘りのある方と結論付けられました。これについては、お一人のパネリストから、「怒り」ではなく、「憤り」ではないかとの意見もありました。言葉や定義は重要である旨の念押しもあり、この方の強い信念を感じました。
なお、この方は、障害年金支分権消滅時効については、私の考え方と同じである旨の意見表明をしていただけました。
私は、このように答えました。「おかしいことはおかしいと考えることができる力」である旨、そして、受任弁護士は、一般的な法律の知識等は十分にお持ちでも、私の争っている理論が主軸になる事件でも、通知、運用、実務等の実態についてはご存じないことがほとんどであるので、この点に係る主張や証拠提出に大きなお役立ちの可能性がある。負けてしまっては、元も子もないので、この点での価値評価が分疑点となる、と。
面白いお話が長谷川弁護士からありました。この方は、東京理科大学理学部化学科と東京大学法学部を卒業されたリケジョです。それ故の発言と思われるが、「裁判官は、法律には詳しいが、それ以外のことに関しては、幼稚園生と思ってください」とうものである。私は、少し前までは、中学生と思っていましたが、間違っていました、といわれた。
実は、この点が大事なことで、我々の主張が理解されないのは、ここに誤解があったのではないかということです。分かってくれる筈だと思っても、伝わっていない。幼稚園生にも分かるように丁寧に主張説明をする必要があるのです。私は、今まで、分かっていても、政治的判断で故意に国よりの判決を下していると思っていたが、長谷川先生の説をなるほどと思いだし始めました。
これらの経験から補佐人制度の発展可能性について少し触れます。我々の担当する、労働や年金の分野は、弁護士の先生方は忙し過ぎて、中々研究が進んでいない場合が多いという特徴があります。
従って、法令と実務との関係、攻めどころ、矛盾点、証拠の収集等我々社労士でなければできない、又は困難な部分について、弁護士の先生に喜んでいただける部分があり、制度の利用価値は高いものと考えます。
実施上の注意点としては、受任弁護士の先生は、必ず主張の軸としている部分をお持ちですので、それを補充する主張とするのが重要と考えます。これは、考えられないことですが、受任弁護士の先生の主張と矛盾する表現があれば、早めに打合せをして修正する必要があります。一言一句の誤りも許されません。
なお、実務上は、訴状の段階から補佐人が登場することは少ないように思いますので、相手方の主張に対抗する場面での準備書面補充書等は、訴状の場合とは異なり、十分な時間のない状態で対応しなければならない場合がほとんどです。従って、常日頃、受任弁護士の先生とは、基本的な部分の考え方をすり合わせしておく必要があるものと考えます。
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