障害年金支分権消滅時効問題については、従来、内簡の無効、裁定の法的性質、及び支払期月未到来等について争ってきた。
ところが、厚生労働大臣は、6月23日付けの新法適用者2名に対して、年金決定通知書に付記した、時効消滅した旨の通知は、単なる事実の通知であって、行政不服審査法第2条に規定する「行政庁の処分」ではないから、同法の審査対象にならないとの理由で、審査請求を却下してきた。
勿論、これらについては、お2人共に、提訴の意思表示をされており、地元名古屋の方の分は、地元の弁護士と私が、国家賠償法に基づく損害賠償事件として共同受任している。だが、全国の受給権者を代表して、長期的には、民衆訴訟の可否についても真剣に検討しなければならなくなってきた。
本日、11時頃、神奈川県横浜市の旧法の適用者の夫であるS.K様からは、同様の書類が届いた旨の連絡を受けた。この文書には、6か月以内に取消訴訟を提訴できる旨の教示文が付いていたそうだが、私の作戦としては、国家賠償法に基づき、弁護士費用を含めて損害賠償請求訴訟を提起するようお勧めする予定である。おいおい私の所にも同様の書類が届く筈であるので、その人その人に適した最善の対処策を決めていく必要がある。
私は、上記の通知文自体、年金決定という行政処分と同時に一体としてなされたものであり、これには行政処分としての「公定力」(簡単にいうと、行政行為が違法であっても、それが取消されるまで有効なものとして通用する力)があるものと思っていたが、今回の決定で、厚生労働大臣は自ら公定力を否定したのである。
そうであれば、年金法では、この重要な権利につき受給権保護の規定があり、差押え等が禁止(国年法第24条、厚年法41条等)されている。
従って、厚生労働大臣が法的根拠なく差押えを超える悪影響を及ぼす不支給を継続できる根拠は何もなくなったのであり、それならは、係争中の裁判についても、取り敢えず、「先払いせよ」という提言が以下の私の行動である。
これは当面のジャブ程度の措置ではあるが、国の意思を確定させる目的を持つ。国の代表者は、法務大臣であるので、厚生労働大臣が却下の決定を下したからと言って、これが国の意思であるとは決められないのである。また、7月11日には、私が民訴法第60条の補佐人を務める名古屋高裁の第3回期日があるので、私としては、名古屋高裁の反応も確認しておきたいのである。
平成28年(行コ)第??号 未支給年金支給請求事件
控訴人 ?? ??
被控訴人 国 同代表者法務大臣
結審前に陳述しておきたい事項について
平成29年7月11日
名古屋高等裁判所 民事第4部 御中
住所 〒???-???? ?????????????????
控訴人 ?? ??
住所 471-0041 愛知県豊田市汐見町 4ー74ー2
控訴人補佐人 木戸 義明 ㊞
控訴人 ?? ??
住所 471-0041 愛知県豊田市汐見町 4ー74ー2
控訴人補佐人 木戸 義明 ㊞
被控訴人の主張は、事実誤認、論理の飛躍、及び本末転倒の積み重ねである。
本紙は、未主張の「本末転倒」について述べた上、裁判所及び被控訴人に一つのお願いをするものである。
被控訴人の本末転倒の代表格は、老齢年金にしか通用しない論理を、不都合を隠し一般論に拡大していることであるが、これについては、既に主張済みであるので、ここでは述べない。
未主張の本末転倒というのは、本来、どちらが裁判等の法的措置を実施しなければならない性質の事件であるかという問題である。
年金決定通知書に付記された通知による不支給は、年金法により被控訴人に支給義務のある、差押え等も禁止された重要な権利(国年法第24条及び25条、厚年法第41条)に対する違法な支給制限である。
控訴人は、この不支給が、年金決定という行政処分と一体としてなされ、処分した行政庁等によって取り消されなければ、いつまでも効力を有する公定力のある「行政庁の処分」(実際に社会保険審査会により審議がされその上で棄却された先例もある)と解釈したから仕方なくこちらから提訴した。
ところが、国年法第24条は、この重要な権利を保護するため、差押えを禁止している。被控訴人は、この通知は行政処分ではなく、単なる事実の通知であると主張している。詰り、自ら公定力を否定しているのである。そして、その不支給の根拠は、未だ争いのある消滅時効の完成という曖昧なもので、受給権者にとっては、差押え以上の悪影響を受けているのである。差押えは、必ず法的根拠が必須要件となる。ところが、被控訴人は、このような重要な権利を確たる法的根拠なしに差押えを超える不利益を受給権者に与えているのである。これは、明らかに国年法第24条の定める受給権の保護規定に違反する行為である。
このように考えると、本来、保険者国はこの問題を争うにしても、支払義務を実施した上で、時効が完成しているというのであれば、国が返還の請求なり、法的措置を実施するのが筋というものである。
被控訴人が、これを不支給とできる根拠は、内簡(甲第3号証)以外にはなく、この内簡は、通知や事務連絡よりも効力は劣位なものとされており、年金法、会計法、及び民法の規定にも抵触している。
従って、本訴においては、一旦は、被控訴人が請求の趣旨の金員を速やかに支払い、その後、本訴の確定を待って清算する方法を提案する。
控訴人は、障害と闘いながら一人で生きていかなければならない環境にあり、この後、どちらかからの上告受理申し立てがない訳ではないので、この裁判の確定までには相当の期間を要するかもしれない。ご検討をお願いする。
以上
説 明 書
平成29年7月11日
この書面を提出した経緯及び意義について簡記します。
厚生労働大臣は、平成29年6月23日付けにて、平成28年4月1日施行の改正行政不服審査法に基づく審査請求を2件却下しました。却下理由は、年金決定通知書に時効完成を理由に不支給とする旨の付記をした行為は、「単に事実の通知であって、行審法第2条による審査請求の対象となる「行政の処分」には該当しない」というものでした。
これを言い替えれば、厚生労働大臣は、この行為の行政処分性を自ら否定した訳で、従って、この行為には、公定力はありません。
厚生労働大臣は、国の代表者ではないので、このことをもって国の意思と決定できるものではありませんが、本件の主管元である同省年金局事業管理課年金給付室長の重永将志様は、「近日中に送付予定の異議申立ての決定書においても、上記のことを記載する予定です。」と同氏から本訴補佐人に宛てた文書で述べられています。
本訴では、主に裁定の法的性質につき議論してきましたが、新たな問題として、上記の通知自体の法的性質が揺らいできました。
今回の考え方に基づけば、これ以上被控訴人が請求の趣旨の年金を保有し続ける法的根拠は、何もなくなったのですから、本文の提案をしたものです。
これを機に、この件に関する国としての統一的見解を明らかにしていただきたい。
以上
(国民年金法102条2項)
「2 前項の時効は、当該年金給付がその全額につき支給を停止されている間は、進行しない。」
(本文3行目から引用)
「ところが、厚生労働大臣は、6月23日付けの新法適用者2名に対して、年金決定通知書に付記した、時効消滅した旨の通知は、云々」とありますから、
単なる事実の通知であるか否かはともなく、この主張は、
1.基本権の成立に先立って障害認定日の属する月の翌月(法)18条1項)から支分権が成立している。
2.基本権の成立までの間はその全額の支給を停止していることになる(法的根拠のない行政処分)。
3.基本権の成立すると同時に、その全額の支給を停止ししていた5年を超える支分権に対しては、法102条1項の適用により時効が完成する。
とする主張に展開出来ます。
従って、ここでは「行政処分に該当するか否か」と言ったことについて争うよりも、ストレートに
「仮に、障害認定日の属する月の翌月より支分権が成立したとしても、国民年金法102条2項が適用になって、(前記「2」の)全額につき支給を停止されている間は、時効が進行しないから、時効消滅することはあり得ない。時効を援用することは国民年金法102条2項に違反している。停止が解除される基本権の成立した日より時効は進行するから、未だ時効は完成していない。(云々)」と主張した方が早道であり、得策ではないでしょうか。
言うまでもなく、基本権の成立した日の直後の支払期月の到来した日より時効は進行中なので、その5年以内に時効中断の措置を執る必要があります。