先々週の予告どおり、第3弾を公開します。相手方の行為の前の警告ですが、効果は、蓋を開けてみないと分かりません。月末には判明します。
平成29年4月5日
誠意ある対応を期待する
厚生労働省年金局
事業管理課長 K.T 様
事業管理課 年金給付係 Y.S 様
異議申立て事件代理人 社会保険労務士 木戸 義明 ㊞
平成29年3月30日(木)10:20頃、Y.S様から電話をいただいた。電話の内容は、「お知らせは下旬になるが、4月中には決定が出る」というものであった。
私は、今日までに、事業管理課長様には、依頼者の代理人の立場で末尾記載1の2通の文書を提出させていただいている。従って、私の考え方は、ほぼご理解いただいているものと思っている。そして、各異議申立書には、「容認」以外の場合は、弁明書の提出を要請しているので、弁明書の提出もなく、行き成り「決定」が出るというのは、容認の決定であると思わざるを得ない。
しかし、一方では、私が関わっている事件では、最新情報である東京地裁平成28年(行ウ)第601号 障害厚生年金支給請求事件での、平成29年3月31日付被告準備書面(1)では、被告は、旧態依然の矛盾だらけの主張をしている。
この事実から判断すると、特段の事情のある新法適用者2名は別として、旧法適用の申立人全員に容認の決定が出ることに疑問を抱かざるを得ない。
そこで、今回のお知らせを、悪く勘ぐって考えると、新法適用の2名については、特別の理由があるから、これを放置して国家賠償法に基づき請求されると、国及び貴職等に不都合がある。従って、兎に角、国家賠償法による提訴を避けるために、取り敢えず、代理人が国家賠償法に基づく提訴をするといっていた2ヵ月が経過してしまったので、「これを避けるため、決定の出る旨の通知をしておこう」ということだけの意味とも考えられる。
仮にそのような姑息な考えであった場合、これが無意味なこと(後記1)と、現在の運用が違法であること(後記2)を、従来触れていない視点について補足説明(違法の証明)を加えると共に、具体的改善策(後記3)等について述べる。
1 決定発出によって国家賠償法に基づく請求を免れ得るものではないこと
今まで、2年半以上も放置しておいて、貴職らが、多数の事案を一挙に措置したとしても、これによって国家賠償法に基づく提訴を免れることはできない。
この懈怠は、行政不服審査法の目的等に反する重過失というより、寧ろ、故意と思われる業務の怠慢である。決定が出たからといってこの事実を消し去ることはできない。
現実的に考えてみても、一挙に約20件の棄却を出されても、私は、これらにつき6ヵ月以内に正攻法である行政処分の取り消し訴訟で対処することは、弁護士への代理委任を含めても不可能である。
益して、弁明書も出されていなければ、論点を絞り込むこともできず、安易に提訴すれば、年金の実体を知らない裁判官が引き続き誤判決を出し易い状況になってしまう。
さすれば、残された道は、取消訴訟を諦めて、貴職らの違法を根拠に国家賠償法に基づく損害賠償の請求をする方法しかない。これならば、6倍の3年間の内に提訴すればよいこととなり、その時に必要となる弁護士費用も請求できる。
2 従来触れていない視点による違法性の証明
現在の運用の違法性について、今まで触れていない内容についても行政法の見地から補充意見を分かり易く述べる。
国は、裁定請求前の過去分についても、基本権の生じた翌月に最初の支分権が発生し、以後各支払期月の到来によって、2ヵ月ごとに支分権が発生し、そこから5年間経過するごとに支分権の消滅時効が進行すると主張する。
そうすると、支分権の発生の都度行政処分(行政庁が、行政目的を実現するために法律によって認められた機能に基づいて、一方的に国民の権利義務その他の法律的地位を具体的に決定する行為)があったことになってしまう。それとも、国は、支分権の発生には、行政処分は存在しないというのであろうか。
末尾記載2の最高裁判所判例解説を熟読していただきたい。裁定は行政処分であると述べられており、そのこと自体、国も認めている。そして、社会保険給付の受給権が実体法上いつどのようにして発生するかは、立法政策により決せられるものであり、現行制度は、形成行為型、確認行為型、及び当然発生型の3類型が存在することとされており、このことも国は認めている。これらの既存の立法政策は、行政権でも司法権でも変えられない。
従って、裁定の時期が行政処分の時期であることは、異論があろう筈がなく、それが正当であるからこそ、その翌日から3ヵ月以内に社会保険審査官及び社会保険審査会法による審査請求ができるのである。
国の主張する時期が行政処分だとすれば、裁定前の過去分について、2ヵ月ごとに無数の行政処分が存在することになってしまい、仮に、この処分に不服のある者は、無数の処分に対して審査請求をしなければならなくなってしまう。そのようなことができる訳がなく、そのような法体系とはなっていない。どのように考えても、この国の論理は成り立たない。
従って、裁定前に具体的債権である支分権が発生することはなく、勿論、消滅時効が進行することはあり得ないことである。
多くの下級審が国を勝たせているのは、老齢年金にしか当て嵌まらない曲論を、障害年金についても当て嵌まる(「国年法は、年金給付を受ける権利の発生及び行使の方法について、障害基礎年金と他の種類の年金との間に差異を設けていない。」神戸地裁平成27年(行ウ)第57号 未支給年金支給請求事件 判決16頁14行目)として、誤判断をしているものである。これが間違っていることは、貴職が十分承知していることである。
私は、保険事故の有無、及び発生時期が客観的であり、裁定請求しさえすれば必ず年金が支給され、かつ、保険者が失権防止に相応の努力をしている老齢年金についてまで、現在の運用を認めないというものではない。
3 具体的解善策について
私は、裁定請求遅れにやむを得ない事情があり、支給を希望している受給権者については、行政がその事実を確認して、速やかに支給すべきと主張しているのである。
世の中複雑で難しい面があり、中には、数百万円の請求や時効の中断よりも、世間の偏見や差別があるので、秘密の方が大事だというご家族やご本人もおみえである。
しかし、そのようなケースは例外中の例外で、ほとんどの受給権者が、生活保護の申請を検討せざるを得ない状況であったり、親亡き後をどのように暮らしていけばよいのか、答えの見付からない状態なのである。
この事件は、当事者がお互いの権利を主張すればよいという性質の強い裁判ではない。提出済みの事案は全て、「簡易迅速な手続による国民の権利利益の救済、及び行政の適正な運営を確保すること」を目的とした異議申立てである。
従って、決定を出しさえすれば行政庁の義務は果たされたというものではなく、本件について、具体的にいえば、審査庁から見て、1件でも棄却が正当と判断される事例があれば、無理やり「決定」を出すのではなく、弁明書を出すべきである。
どのようにするのが同法の目的に適った処分となるかを慎重に考えていただきたい。
末尾記載
1 事業管理課長様に提出済みの文書
(1) 平成27年3月10日「消滅時効問題の早期対処の依頼について」
(2) 平成27年11月8日「違法行為の積み重ねの断絶は急務であることについて」
2 最高裁判所判例解説
民事編 平成7年度(下)本村年金訴訟上告審判例 平成10年3月25日
939頁本文左から5列から941頁6列目まで
以上