2016年12月24日

控訴理由書(案)


先週に引き続いて、現在作成中の控訴理由書の公表によって問題提起したい。今回は特に長くなるが、私は、国や多くの下級裁判所がこんな無茶苦茶な主張や判断をしているという事実を少しでも多くの読者に分かっていただきたく全文のアップを決断した。従って、継続的な読者でない場合、分かりにくい部分が頻発するかもしれないが、一部なり共感を持っていただければ、幸いであると思っている。

例外中の例外であるが、読者の中には、これらを参考にしてご自分でやってみたいとおっしゃる方もおみえであるので、今回は省略を避けた。

しかし、法解釈誤りという一般論では、弁護士でさえ、全敗の状況であるので、どうしても!!と思われる方は、その積りで対処願いたい。そうでないと、手数料(収入印紙代)と予納郵券代を浪費することになり、判決が敗訴で確定してしまう。私は、弁護士ではないので、主に、上記の費用の生じない厚生労働大臣に対する異議申立てを受任しており、裁判に関しては、原則として、補佐人や証人としての役割しかしていない。本件については、特別な関係(成年後見制度の保佐人)から、人道上、人権上無償で支援している事件であるので、お含み置きいただきたい


平成2?年(行○)第○号 未支給年金支給請求控訴事件
控訴人(第1審原告) ○○ ○○
被控訴人(第1審被告) 国 同代表者法務大臣 

控訴理由書


平成29年1月○○日

名古屋高等裁判所 御中

住所 〒○○-○○ ○○市○○ ○丁目○番○号
原告 ○○ ○○ ㊞
携帯番号 0?0−○○○○−○○○○


送達場所  471-0041 愛知県豊田市汐見町 4ー74ー2
原告保佐人 木戸 義明
電話 0565-32-6271
FAX 0565-77-9211
携帯 090-7317-0016


はじめに
原審の説示を読むと、流石に、2回で結審をさせただけのことはあり、問題点の本質を、比較的正確に把握されていると思われる。
しかし、そうであるが故に、原審は法律的判断とは認めることができず、法解釈を誤った政治的判断であると思われるので、即座に控訴を決意した。

本訴は、被控訴人の障害年金に係る運用について、単純に、法解釈誤りをしている旨を訴えているものである。この運用が本来あるべき姿とは異なるとかを問題とする価値評価の問題ではない。この問題は、四島返還が正しいか、二島返還が正しいかといった方針決定や評価の問題とは違う。

判決が、帰納法に基づいていても、結論ありきから始まっていても構わない。しかし、重要な前提条件の設定が間違っていたり、論理の飛躍や論理矛盾があっては、これは法律的解釈とはいえない。

この運用は、年金法、及び民法の趣旨に反する内簡に基づいて運用されていることは明らかである(顕著な事実)ので、極端に考えれば、被控訴人が現在の運用があるべき姿であると考えているのであれば、この内容をそのまま立法の手続を経て法令にすれば、問題なく(ただし、5年にすべきか10年又は20年にすべきかは別の議論になる可能性が高い)治まる紛争である。

先ずは、端的に、問題点を指摘する。
原審は公平に欠け、論理矛盾や論理の飛躍があり、かつ黒い物を白と言い含めるがごとき推論に無理のある判決内容であり、到底、裁判所の判断とは思われない。
第一 原審が中立的立場で判断していないこと
第二 原審は、本案の重要部分に係る最高裁の判断を無視する等、判決方針に不都合な(民事訴訟法第181条1項の「必要ないと認めるもの」ではない)主張・書証を判断材料から除いていること
第三 原審は、本案を独立した権利である支分権の消滅時効の成否の問題と捉えていないこと、及び支分権の問題を基本権の問題とみなしても支障とならない理由が示されていないこと
 の3点に大別できる。

原審の説示は、独立した権利(しかも、このことは被控訴人でさえ認めている)である支分権の問題を基本権の問題に置き換えた誤った法律上の障害説に基づいており、権利の行使可能性の不存在、支分権消滅時効の起算日誤り、支分権の支払期月(納期)の解釈誤り、国が勝訴している下級審判決理由誤りの踏襲(これが老齢年金の事案であれば、@保険事故自体の存在及び発生時期の客観性、A裁定請求すれば100%受給に結びつくこと、及びB被日が失権防止に相応の努力をしていることに鑑み控訴人もこの判断を容認している)、裁定の性質に係る最高裁の判例解説の説示の無視、法務省訟務局内社会保険関係訟務実務研究会の正しい見解の無視、社会保険審査会の正しい裁決理由の不採用、及び障害年金の実際の運用の事実誤認等、どの面から見ても、不合理であり、結果、違法行為をしていることになる。

被控訴人の主張は、裁定に係る最高裁の考え方にも反し、法治国家としてあり得ない現状になっており、障害者への福祉上も大問題である。しかし、これを認めている原審は、それ以上に問題である。

 原審判決には、既に述べたように、公平に欠け、論理矛盾と論理の飛躍があり、法解釈の違法があるので、本書では重複する確認事項等は極力割愛し、原審判決の違法部分を具体的に指摘し、それが、なぜ違法なのかを明確にして控訴理由書とする。

第1「第3 当裁判所の判断 1(1 起算点)ア」の違法について
原審は、標記について「国民年金法16条は、給付を受ける権利は、受給権者の請求に基づき厚生労働大臣が裁定するものとしているが、これは、画一公平な処理により無用の紛争を防止し、給付の法的確実性を担保するため、その権利の発生要件の存否や金額等につき厚生労働大臣が公権的に確認するのが相当であるとの見地から、基本権たる受給権について、厚生労働大臣による裁定を受けて初めて年金の支給が可能となる旨を明らかにしたものである(最高裁平成3年(行ツ)第212号同711年月7日)第三小法廷判決・民衆49巻9号2829頁参照。すなわち、支分権も、基本権が発生した(年金を支給すべき事由が生じた)月の翌日以降の各支払期の到来によって順次発生するものと解すべきである
したがって、支分権については、各支払期の到来時が「その支給事由が生じた日」であり、各支払月の翌月の初日が消滅時効の起算点となると解すべきである。」(6頁15行目、下線は原告が付した。以下同じ)と説示する。

1 支分権の発生と納期(支払期月)について
 しかし、この考え方によれば、そもそも、引用文7行目までで述べる理由により、各支払期月の到来によって順次発生するものと解する理由はなく、ここでも論理の飛躍がある。
仮に、原審の考え方によっても、支払期月が到来しなければ、支分権の消滅時効は起算されない。各支払期月は、過去における架空の支払期月であり、観念上のものであるので、裁定前には、永久に到達することはない。従って、起算日を確定するのに重要となるのは、納期(支払期月)の解釈である。
納期(支払期月)の解釈は、裁定の性質及び国民年金法第18条3項ただし書の規定から原審の解釈はありえず、結論として、甲第10号証が「国年法及び厚年法上の年金の支分権の消滅時効の起算点も右の原則に従い、裁定後の分については各支払期の到来したときであるが、裁定前に支払期が到来したものについては裁定時(ただし、初日不参入)が起算点となる。」と明らかにしている。
裁定前に原則的な支払期が経過したものまで、「各支払期が到来した時」と認めることは、物理的に不可能であり、法の世界で行われるべきことではない。
正しい支払期月は、平成24年4月20日付名古屋高裁判決(甲第5号証)が明らかにしているように年金決定のあった日の属する月の翌月であり、その翌月の初日が消滅時効の起算日となる。
従って、原審の説示のように解すべきではない。
 原審の判断は、裁定の性質を誤解釈したものである。
原審は、引用の最高裁判例にいう「年金の支給が可能」とならなくとも、消滅時効を進行させることができると考えているが、「支給が可能となる」の意味するところは、そこから権利行使が可能となるということである。
その何よりの証拠に、この同じ事件の最高裁判例解説(甲第4号証)において、「行政庁による認定、決定、裁定等の確認行為によって初めて具体的な権利を発生させることとしているものの代表例が国民年金法第16条の裁定とされている(940頁6列目)」からである。
そもそも、権利行使できない債権について、継続5年間の権利不行使は成り立たない。
 年金法には、権利行使のできない債権の消滅時効を進行させるという立法趣旨はなく、(国年法第102条2項、甲第13号証)原審の判断は、根本から誤っている。
被控訴人も原審も、本件の支払期月を国年法第18条3項の原則的な支払期月としているが、これは裁定請求時から見れば、既に、過去に経過している時期であるので、実存しない観念論上のものであり、原審のように解すべきものではない。
一括払いされている遡及5年間分の支払期月は、同条同項ただし書であり、この分と、5年を越える遡及分とを区別できる理由はなく、両者を含め一つの支払期月しかない。
従って、裁定請求時には、支払期月は到来しない。このように、支給を制限する理由がないのにも拘らず、その分が支払われていないのは、全額支給停止されているのと同じことであり、これを時効進行させることは年金法の趣旨(国年法第102条2項、甲第13号証)にも反する。
発生時期、金額については、原審も指摘(8頁下から9行目)するように、受給権者が裁定請求をしたときに分かっていなければ意味がなく、それが不明の内は、債権が具体化していないので、保険者が自主的に支払うことも受給権者が、請求することもできない。
 また、納期(支払期月)に2つの解釈がある場合、納期(支払期月)を債務者が自由に選択できるものではなく、年金法においても、納期(支払期月)は厳格に規定されており、本案の納期(支払期月)の規定は、国民年金法第18条3項ただし書である。
このことは、先述したとおり、結論として、甲第10号証が明らかにしている。
この研究会は、本案等社会保険関係の訴訟実務を担当するこの件を一番熟知している中枢機関である法務省訟務局内の訟務実務研究会である。その研究会が、誰が読んでも誤解の生じないように明確に、控訴人と同じ見解をその著書で公に(甲第10号証)している。
2 裁定の裁量権について
国年法第16条の裁定の性質に係る最高裁の解釈は、これは、確認行為型の行政処分であり、確認行為型の行政処分(裁定)には、裁量権があり、既に存在する権利に変動を及ぼすことができるものであるので、裁定があって、初めて支分権が発生するというものである。
従って、原審の判断は、机上の空論を述べていることになる。

 第2「第3の1(1)イ(観念論)」の違法について
原審は、標記について「しかしながら、国民年金法16条に基づく裁定の法的性質が「行政の処分」に該当するからといって、そのことから支分権を含む年金を受給する権利が発生しないと解することはできない。厚生労働大臣の裁定を受けない限り、現実に支分権の給付を受けることができないことは原告が指摘するとおりであるが、上記のとおり、厚生労働大臣の裁定は確認行為にとどまることに加えて、基本権の発生要件や支分権の発生時期金額については明確な規定が設けられていることを併せ考慮すると、年金を支給すべき事由が生じた後は、受給権者が基本権についての裁定の請求をしなかったとしても、支分権は、その支給すべき事由が生じた日の属する月の翌月から支給を始めるものとして順次潜在的・抽象的には発生するものと観念することができる。そして、受給権者は、基本権について裁定の請求をすることについては法律上の障害がなく、裁定の請求をした上で裁定を受けさえすれば、支分権を行使して年金の支給を受けることができるのであるから、支分権を行使するに当たり裁定を受けることが条件になっていると評価することができず、裁定を受けていないことは、支分権の行使についての法律上の障害に当たらないというべきである。なお、このように解することは、年金時効特例法2条が、「支払期月ごとに又は一時金として支払うものとされる給付の支給を受ける権利について当該裁定までの日に消滅時効が完成した場合においても、当該権利に基づく給付を支払う」ものとしており、裁定前であっても。支分権の消滅時効が進行し、裁定前に消滅時効が完成するという事態があり得ることを所与の前提としていることとも整合するものである。」(7頁7行目)と説示する。

 1 「確認行為にとどまる」について
  ところが、被控訴人及び原審のいう確認行為は、甲第4号証が説示する、当然発生型の処分の内容(940頁左から2列目)である。何度もいうことになるが、確認行為型の行政処分は、甲第4号証が示すとおり、既に発生している権利に変動を及ぼすことができる行政処分であるので、裁定は確認行為にとどまらず、この裁定(処分)の後に債権は具体化し、権利行使が初めて可能となるのである。
  控訴人は、原審がいうように、この裁定が「行政処分」に該当することだけを根拠としておらず、その作用を根拠としているものである。
 2 「明確な規定が設けられている」について
発生時期については、基本権については明らかといえるが、障害年金の支分権については、既に述べているように明らかな規定があるとはいえない。仮に明確な規定であれば、このように揉める事もなく、潜在的抽象的観念論を持ち出す必要はないが、これを持ち出さなければならないことだけからしても、明確な規定でないことが証明される。
障害等級や加給の有無が決定されなければ、金額は決まらず、この決定には、必ず判断行為が入るのである。従って、障害年金については、明確な規定といえるものではない。
仮に、原審がいう時期に支分権が発生していたとしても、潜在的抽象的に観念の上で発生していたにとどまり、被控訴人の主張によっても(片や、控訴人の主張によれば、裁定によって具体化する)、支払期月(これは、既述のとおり一つしかない)が到来しなければ、債権は具体化しない。従って、問題としなければならない裁定請求の時期(判決書8頁下から9行目)には、この支分権は、期限未到来の年金であり、法律上の障害の代表例の一つである
被控訴人や原審がいうように、この支払期月が無数にあるというのであれば、国会答弁(甲第7号証3/4下から6行目等)によれば、被控訴人は5年の満了を迎える度に時効の援用を要することになる(「これらの権利の発生から五年を経過したときに、個別に時効の援用を行った場合に限り当該権利が時効消滅することとされたのである」3/4下から12行目)が、この対応は被控訴人には不可能である。
 3 「裁定を受けさえすれば」について
  本訴は、障害年金については、裁定請求をしても裁定が受けられないことがあるからこれを問題にしているのにも拘らず、「裁定を受けさえすれば」、「支分権を行使することができるのであるから」との理由付けに何の意味があるのか。これは、判決理由になっていない。論理矛盾も甚だしく、無茶苦茶な説示である。
そして、受給の成否等は、原審も「原告が裁定の請求をした時点において・・・」(8頁下から9行目)と指摘しているように、裁定請求時に分かっている必要があるが、これは、一番分かり得る立場にある認定医でさえ、分からないことである。
老齢基礎年金の受給要件は、保険料納付要件を満たした者が65歳に達したとき(国民年金法第26条)である。
一方、例えば、障害基礎年金の重要な受給要件の一つは、障害認定日に、その傷病により障害等級に該当する程度の状態にあることである。
そして、各級の障害の程度は、政令で定める旨規定(同法第30条2項)され、その政令では、甲第16号証のような曖昧な基準を定めている。
これでは判断する人によって、各等級の該当の有無は判断が区々となり、極端な場合、保険者自らの「処分変更」のような事態が生じる。
従って、裁定請求をすれば100%支分権に結び付くのは、老齢年金だけであり、障害年金は、裁定請求さえすれば支分権に結び付く仕組みになっていない。
被控訴人や原審は、前提条件とした事実を誤認しており、結果、誤った判断をしている。
被控訴人や原審が前提としたのは、本件裁定(確認行為型の行政処分)を当然発生型の行政処分(甲第4号証940頁12列目)と混同したものであり、老齢年金と障害年金の実態の違いを混同したものである。
  被控訴人が主張し原審が認めている曲論(第1準備書面31頁13行目)は、障害年金については、明らかに論理が破綻しており、その論理を例外的に認めるとした場合でも、老齢年金の一般的事情の場合に限られるものである。
4 「時効特例法との整合」について
原審は、年金時効特例法第2条の規定は、「裁定前であっても支分権の消滅時効が進行することを当然の前提としている」と判示しているが、それは、逆からの証明であり、「逆必ずしも真ならず」の見本のようなものである。また、事後にできた不完全な法律との整合性に何の意味があるのか。そもそも、年金時効特例法は、裁定前に支分権の消滅時効が進行することを当然の前提としていない。
以下は、本来不要な主張であるが、これを理由とした誤った下級審判決が余りにも多いので、少し長くなるが、主張を補充する。
年金時効特例法は、単なる請求漏れには全く適用されない。同法は、新たに発見された記録について、当然に消滅時効の完成がなかったものとするのではなく、いわゆる年金記録の訂正がなされ、かつ、それに基づく裁定(裁定の訂正を含む)がされた場合に初めて支給がされるというものである。
詰り、訂正された記録に基づく裁定があった時から、訂正された部分についての支分権の消滅時効が進行する、というものである。
いわゆる記録訂正によって救済されるケースは、そもそも(訂正される前)の支分権発生時(裁定請求時)には年金記録として認識されておらず、裁定請求の対象になっていなかった部分が、後日、年金第三者委員会の判断等を経て、記録ありと判断されたケースである。
従って、該当訂正記録部分は、全てが、それまでは裁定請求が行われていなかったものであり、当該部分に関する支分権は発生していなかったことを意味するものであるから、「裁定前であっても支分権の消滅時効が進行することを当然の前提としている」訳ではない。
訂正後の支分権が発生するのは、記録を訂正し、再裁定を行った時点である。再裁定の時に支分権が発生するのであるから、訂正前の裁定に基づく時効には関わりなく、再裁定時に、訂正後の記録に基づく過去の分が遡って全額支給される、という取扱いであり、これは、控訴人が主張している内容と一致する。
また、この問題は、保険者の職員の不祥事等により、現実の社会問題を急ぎ救済することを目的に、極めて短期間に議員立法により作られた法律であり、多面的に審議が十分に尽くされた立法であったとは認め難いものである。
更に、内簡発行時からの問題を、その後の立法により律することはできず、整合性を検討する価値もない。
以上の次第で、年金時効特例法は、「裁定前であっても支分権の消滅時効が進行することを当然の前提としている」ものではない。
ことほど左様に、本案に係る被控訴人の主張、及び原審の説示は悉く間違っており、合理性・整合性がなく、矛盾だらけのものである。従って、平成24年4月20日付名古屋高裁判決(甲第5号証)が被控訴人(国)の主張の一つなりとも採用しなかつたのである。

第3「第3の1(4 原告の主張)」の判示部分の違法について
1 上記@の点(支分権の支払期月)について
原審は、標記について「しかしながら、上記@の点(支分権の支払期月)については、国民年金法18条3項ただし書は、裁定の手続の遅れ等により、本来の支払期月に支払われなかった年金(支分権)の支給時期について定めたものにとどまり、支分権の発生時期を定めたものではない。また、支分権の発生時期と支払期(遅延損害金の発生時期)とは異なるものであって、本件裁定がされるまでは、本件裁定前に発生した支分権については支払期は到来していないから、上記支分権に係る遅延損害金は発生せず、原告の主張を採用することはできない。」(9頁13行目)と説示する。

  原審によれば、「本件裁定がされるまでは、本件裁定前に発生した支分権については、支払期は到来していないから、・・・」(9頁17行目)と述べられている。
表現方法は異なるが、これは、上記の説示部分を含め、控訴人が本論において主張している内容そのものであり、この考え方は、遅延損害金に係る考察に限ったものではない。この原審の判示は、明らかに論理矛盾である。
原審は、国年法第18条1項の規定から支払期月の解釈をしているようであるが、これは、いつからいつまでの分を支払うという支給期間を定めた規定であり、納期(支払期月)を定めた規定ではない。
  本案の正しい支払期月は、既述のとおり、一つしかないので、障害年金については、基本権と支分権を混同した潜在的抽象的観念論は成り立ち得ないので、障害年金の支分権(老齢年金との違いは、原審の原告の主張参照)は、裁定請求時には期限未到来の年金である。
  遡及5年分とそれを越える訴求分の支払期月を異なる支払期月とする根拠がない。過去分の支払期月は、幾つもあるのではなく、一つしかない。
 また、「裁定の手続の遅れ等により、本来の支払期月に支払われなかった年金(支分権)の支給時期について定めたものにとどまり」との説示は、この規定は、適用事項を限定列挙した規定ではないので、説示の内容は、代表例の内の一つにすぎない。
2 上記Aの点(裁定の性質、帰責性)について
原審は、標記について「上記Aの点(裁定の性質、帰責性)前記(1)イにおいて判示したとおり、年金を支給すべき事由が生じた後は、受給権者が基本権についての裁定の請求をしなかったとしても、支分権は、その支給すべき事由が生じた日の属する月の翌月から支給を始めるべきものとして、順次潜在的・抽象的に発生するものと観念されるところ、受給権者は、基本権について裁定の請求をすることについては法律上の障害がなく、裁定の請求をした上で裁定を受けさえすれば、支分権を行使して年金の支給を受けることができるものである。そして、弁論の全趣旨によれば、原告は、平成19年7月以降、自己が国民年金法30条1項のいう疾病にり患して入通院していたこと自体は認識していたものと認められ、原告の障害の程度や原告が裁定の請求をした場合の結果等に係る原告の認識等は、事実上又は主観上の障害にとどまるものと解されるから、これを法律上の障害ということはできず、原告の主張を採用することはできない。」(9頁下から7行目)と説示する。

 何度も言うが、障害年金の支分権については、裁定前に支給事由が生じることはない。そして、「裁定請求をしさえすれば」という仮説は、裁定請求をしても年金の支給を受けられない場合が、12.5% もあることから、前提条件とすることができない事柄である。ここにも論理の飛躍がある。
また、原審は、控訴人本人の事情については、入通院の事実から裁定請求ができる状態を認識していたと断定しているが、入通院をしていた者が障害年金と直結するものでもなく、精神の障害によるこの種の判断は、そんなに簡単なものではない。
そもそも、精神障害の事案では、発症後数年経ってからでも、自らが、病人、又は障害者であると認識していない場合が多く(甲第17号証、8/18、9頁1列目、13/18、30頁左から3列目)、このような者の裁定請求遅れを事実上の障害であると片付けてしまうこと自体に大きな問題がある。
本件控訴人の保佐人の妻は、統合失調症であったが、同居している夫でさえも、初診日即入院で、1年7ヵ月の入院を経て、退院後にも認識できなかった。まして、精神障害者本人が、発症初期の段階で認識することは極めて難しいことである。これを事実上の障害であると決め付けることには無理がある。
「原告の障害の程度や原告が裁定の請求をした場合の結果等に係る原告の認識は、事実上又は主観上の障害にとどまるものと解される」(13頁下から2行目)との解釈は、一定の精神障害者の場合には、当て嵌まらず、事実誤認に基づく説示である。
3 上記Bの点(時効援用の意思の通知)の不適切について
原審は、標記について「上記Bの点(時効援用の意思の通知)については、「厚生労働大臣は、原告に対し、本件記載のある国民年金決定通知書により本件通知をしたのであるから、これが消滅時効を援用する旨の意思表示であることは明らかであって、原告の主張を援用することはできない。」(9頁下から7行目)と説示する。
(1) 時効の援用の自由と良心
時効の援用は、債権者の自由である。しかし、国の立場からすれば、こんな問題に対してまで、時効の援用をするのかしないのかは、国民一般の大きな関心事であり、「良心の法律」といわれている所以のある消滅時効の規定に関しては、国の姿勢を明らかにすべきである。国の行為である以上、この通知が、時効の援用である旨が分かるように通知することは必須要件である。
(2) 国会答弁の拘束力について
   国会答弁においては、本案については援用の有無を「個別に検討する」といっている。時の内閣総理大臣が約束したこと(甲第7号証3/4下から12行目)は、当然、国の行政機関には、一番重い遵守義務がある。
   なお、この2項目については、法律論争ではない。
4 上記Cの点(内簡の違法性)について
原審は、標記について「上記Cの点(内簡の違法性)については、「本件内翰の内容が、法令等に違反するものとは認められず、本件内翰が法令でないことは、前記(3)の判断を左右しない。」(10頁9行目)と説示する。
しかし、以下の点で内簡の定めは違法である。
@ 継続5年間の権利不行使がない支分権を独立した権利である基本権に対する権利不行使と混同させ、時効消滅させていること。
A 時効の進行を逆進させて、逆算した取扱いにより、一日なりとも誤差があってはならない消滅時効の起算日に誤差を生じさせていること。これは、受給権者に有利にした取扱いではあるが、これは、厚生労働大臣に許された権限を越える。
5 上記Dの点(社会保険審査会の見解)について
原審は、標記について「上記Dの点(社会保険審査会の正しい見解)については、証拠(乙8)によれば、遅くとも平成25年7月31日以降、社会保険審査会が年金の裁定前には支分権の消滅時効は進行しないとう考え方や、裁定の請求から5年以上前に発生した支分権につき年金を支払わないことは特別の法律に基づかない行政措置であるという考え方を採っているとは認められない上、支分権の消滅時効に関する解釈は、前記(1)で判示したとおりであって、被告が消滅時効を援用することが、法律に基づかない特別な行政措置ということもできないから、原告の主張を採用することはできない。」(10頁11行目)と説示する。
 
原審は、社会保険審査会が苦悩に苦悩を重ね、見解変更をした経緯を蔑ろにしている。平成8年当時の社会保険審査会の見解が真実でないというのであれば、当時の社会保険審査会は、この部分が正しい旨の理由を示している(甲第6号証、第4の2、64頁17行目)のであるから、原審がこれを否定するのであれば、相応の理由を示すのが裁判所の誠意である。
この時の社会保険審査会の見解変更については、強い口調で、いかように徹底的に考えようが、裁定前に支分権の消滅時効が進行すると考えることは、道理に合わない旨を説いている。そして、この説示に反する保険者等の姿勢を公然と非難している。
厚生労働大臣が人事権を持っている社会保険審査会委員でさえここまで公平な言動を実行しているのに、司法を司る裁判官がどうして公平な立場で判断できないのか。
これは、問題が問題であるだけに放置できない。瀬木比呂志明治大学教授によれは、「日本の原発訴訟、刑事訴訟、及び行政訴訟においては、大半の裁判官が、最高裁や最高裁事務総局に間接的にコントロールされている」、「行政事件についてまともな審理を行う裁判官は、10人に1人である。」といわれる。
控訴人は、いくら裁判といえども、多少の不公平は仕方ないことと諦めているが、故意に、論理の矛盾や論理飛躍をまでさせて、公理ともいえるような消滅時効の基本原理を踏み躙ってまで国を擁護することは絶対に許されるべきことではないと考えている。
このような違法があれば、最早、この問題は司法では解決できないことになるので、不本意ではあるが、政治家やマスコミに動いてもらうことになる。
話を戻せば、平成8年以降平成25年7月30日までは、社会保険審査会も自ら見直した見解を認めていたことになる。原告は、社会保険審査会の見解変更に拘らず真理は不変と主張しているのだからどちらが真実かと、その理由を述べなければこのことに係る理由を示したことにならない。

第4 結論
 以上により、確認行為型の行政処分(裁定)の前には、支分権は発生しておらず、発生もしていない支分権の消滅時効が進行する道理がない。また、支払期月の未到来の支分権は、明らかに、期限未到来の債権であり、時効進行上の法律上の障害である。
なお、受給権者が傷病及び障害の状態を認識していなければ裁定請求に及ぶことはなく、本件は、これに該当し、元夫の依頼に基づき社労士が裁定請求代行をしていた。
従って、原告の請求を棄却した原審判決は、事実誤認、判断の誤り、及び理由の齟齬があるので、取消されなければならない。

添付資料

甲号証の写し   各1通

証拠方法

証拠説明書による
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コメント対象部分1
第1「第3 当裁判所の判断 1(1 起算点)ア」の違法について
原審は、標記について「国民年金法16条は、給付を受ける権利は、受給権者の請求に基づき厚生労働大臣が裁定するものとしているが、これは、画一公平な処理により無用の紛争を防止し、給付の法的確実性を担保するため、その権利の発生要件の存否や金額等につき厚生労働大臣が公権的に確認するのが相当であるとの見地から、基本権たる受給権について、厚生労働大臣による裁定を受けて初めて年金の支給が可能となる旨を明らかにしたものである(最高裁平成3年(行ツ)第212号同711年月7日)第三小法廷判決・民衆49巻9号2829頁参照。すなわち、支分権も、基本権が発生した(年金を支給すべき事由が生じた)月の翌日以降の各支払期の到来によって順次発生するものと解すべきである。

コメント:1
「(年金を支給すべき事由が生じた)」即ち、「支給すべき事由が生じた日」とは、法18条1項に規定する文言であって障害基礎年金であれば「障害認定日」を指し、法102条1項に規定する「支給事由が生じた日」は基本権の成立した日、即ち、裁定請求者が厚生労働大臣から年金決定通知書を受領した日を指し、紛らわしいですが表現ですが意味合いが全く異なります。また、「基本権が発生した(年金を支給すべき事由が生じた)月」と表現しているが、基本権は月を単位にする概念がないので間違いです。なぜなら、月を単位にするこの表現では翌月ではなく当月からの支分権の発生があり得るからです。
本来ならば、ここでは(原文を可能な限り生かした表現をするなら)「基本権が発生した(年金を支給すべき事由が生じた)月」ではなく「基本権が発生した(支給事由が生じた日の属する)月」としなければならないところです。意図的であるか否かはわかりませんが、文言のすり替えを行って結論を誤った方向に導いています。
核心となる部分なので明確に指摘すべきです。

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コメント対象部分: 2
したがって、支分権については、各支払期の到来時が「その支給事由が生じた日」であり、各支払月の翌月の初日が消滅時効の起算点となると解すべきである。」(6頁15行目、下線は原告が付した。以下同じ)と説示する。

コメント: 2
「支分権については、各支払期の到来時が「その支給事由が生じた日」」としているが、前述のコメントから既におわかりのように、ここにいう「その支給事由が生じた日」は、基本権の成立した日、即ち、裁定請求者が厚生労働大臣から年金決定通知書を受領した日を指します。従って、仮に、障害認定日が平成20年3月16日であったとしても、平成20年4月から支分権が発生するのではなく、年金決定通知書を受理した日が平成28年9月15日であれば、平成28年9月15日の直後に到来する支払期月、即ち、平成28年10月の初日の到来とともに支分権が発生し独立し、以後、順次支払期月の到来とともに発生・独立することになります。前述のコメント最後部の指摘のように、文言のすり替えによって結論が誤った方向に導かれています。
Posted by hi-szk at 2016年12月25日 11:00
コメントを追加させていただきます。適切でない箇所は指摘してください。

コメント対象部分:3(第1、1、ウ前段部)
一括払いされている遡及5年間分の支払期月は、同条同項ただし書であり、この分と、5年を越える遡及分とを区別できる理由はなく、両者を含め一つの支払期月しかない。

コメント:3
一旦、基本権を付与する裁定が下されると、法18条1項及び同3項本文により、支分権は、基本権の成立日の直後に到来する支払期月から次々と成立し独立します(障害認定日の属する月の翌月から独立するのではない)。
その内容として、支分権の成立日及び支払うべき金額並びに支払期限、支払日などがセットされます。支給停止の決定があれば、その旨もセットされ眠らされる状態になりますが、支分権自体は存続しています。存在しているから、その支分権の消滅時効の進行を停止させる必要があり(法102条2項)、その支給の停止が取り消されれば、(新たな支分権の成立ではなく)既存の支分権を目覚めさせて履行することになります。
訴訟案件を含む計算誤謬等で未支給金があることが判明した場合はどうするかというと、本来的に支払うべき金額の更正又は決定となるので、その金額も該当する支分権の内容としてセットされます。従って、3項の但し書きにより新たな支分権が成立したことにはならず、支払遅延損害金が発生するという顛末が到来することになります。
但し書き規定により新たな支分権が成立すると主張しておいて、過去に成立した支分権だからと言って支払遅延損害金を請求するのは辻褄が合いません。
3項但し書き規定は、支払期限の過ぎている未支給の年金にかかる支払の根拠を法定しているだけの規定です。後記「第3、1」前段の解釈が自然ではないでしょうか。
ただし、その後段の被控訴人の主張は間違っています。本来支払われるべきものを何某かの理由があったとしても、支払期限の過ぎている支分権によって支払われるべきものですから、支払遅延損害金の支払い義務があるのは当然です。本来的に支払われべき金額が未支給となっているから、審査請求や裁判にかけて決めてもらおうとしているのであり、新たに支分権が成立した訳ではないことを主張する必要があります。
後段のこの主張は、初めて裁定請求をして裁定を下され新たな支分権の成立したときに該当するものであり、通常、裁定した日の直後に到来する支払期月(支分権)の15日に支払われているから、支払義務は生じません。
Posted by hi-szk at 2016年12月26日 12:30
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