本日は、現在作成中の陳述書の公表によって問題提起したい。私は、第一審で徹底的に議論しないと、裁判所にも分かってもらえない事件内容と考えていたが、2回期日で終らせておいてこれでは、我が国は法治国家・福祉国家といえない。
平成28年(行○)第○号 未支給年金支給請求控訴事件
控訴人 ○○ ○○
被控訴人 国
陳 述 書 (案)
平成29年1月23日
豊田市汐見町 4−74−2
社会保険労務士、消費生活アドバイザー
保佐人 証人 木戸 義明 ㊞
豊田市汐見町 4−74−2
社会保険労務士、消費生活アドバイザー
保佐人 証人 木戸 義明 ㊞
原告の保佐人・本訴の証人は、社会保険労務士法により、労働社会保険諸法令に係る手続等を有償で行うことを許された唯一の専門家であるので、本案に係る重要な部分に限定して、専門家としての経験と知見に基づき、障害年金の運用の実態に係る事実について証言する。
1 原審は、国民年金法第16条の裁定は、「厚生労働大臣の裁定は確認行為であって、・・・、支分権も、基本権の発生した(年金を支給すべき事由が生じた)月の翌月以降の各支払期月の到来によって順次発生するものと解すべきである。」と説示する。
これは、「当然発生型の行政処分」の内容を指しており(甲第4号証940頁11列目)、事実誤認がある。
同法16条の裁定は、確認行為型の行政処分であり(甲第4号証940頁7列目)、既に存在している権利に変動を及ぼすことができる行政処分である(甲第4号証940頁左から1列目、左から4列目、及び左から1列目の反対解釈)ので、この処分があって、初めて、具体的債権である支分権が発生する(甲第4号証940頁6列目)ものである。従って、原審説示のようには解する余地がない。
ここでいう、既に発生している権利というのは、法定要件を満たしたときに発生するとされている基本権であり、これは、支分権を生み出す抽象的、観念的な権利で、未だ具体化していないものである。
法務省内訟務局内社会保険関係訟務実務研究会も、裁定前の起算点と裁定後の起算点を明確に区分して、「裁定前に支払期が到来したものについては裁定時(ただし、初日不参入))が起算点となる。」(甲第10号証)と、明言している。
この両書証に書かれていることは、諸法制の全てに整合し、運用実態にも合致している。
2 上記のことは、本証人が実務上経験した、再審査請求事件(平成27年(国)第458号、障害基礎年金、第4部会)において、審査の途中で、保険者自らが、当初棄却した処分を取消し、容認の決定をした「処分変更」をしてきた事実からも実証される。
なお、この「処分変更」は、しばしば行われている(甲第20号証)ようである。
3 仮に、原審が説示するように、基本権の発生した翌月に、順次各支払期月が到来した都度、支分権が発生するとすれば、その受給権者は、その時から、支給の請求や時効中断の行為ができることとなるが、その方法は全く存在しない。
4 原審は、「基本権に対する権利不行使を支分権に対する権利不行使とみなす」という法律的手法を用い、裁定請求(詰り、基本権に対する権利行使)の遅れた者に対し、支分権の消滅時効の完成を認めているが、基本権と支分権の独立性については、被控訴人も認めている事実であるので、支分権に対する継続5年間の権利不行使が存在しない支分権について、時効の完成を認めている原審判決は明らかな誤判決である。
この判決は、「一定期間の権利不行使があって消滅時効が完成する」という公理に匹敵するほどの真理に反するものであり、司法の世界においてあってはならない判決である。
5 原審は、控訴人本人の事情については、入通院の事実から裁定請求ができる状態を認識していたと断定しているが、入通院をしていた者が障害年金と直結するものでもないことは自明の理であり、精神障害の事案では、発症後数年経ってからでも、自らが、病人、又は障害者であると認識していない場合が多い(甲第18号証、8/18、9頁1列目、13/18、30頁左から3列目)のである。そのような者は、正当な権利者(甲第13号証)とは思っておらず、裁定請求に及ぶことは無い。
6 従って、この考え方は、老齢年金、障害年金、及び遺族年金等(障害手当金等を含む)の全ての年金に共通することであるが、老齢年金の一般的事情のものについては、次の事情に鑑み、本件証人も被控訴人及び原審の主張を例外的な取扱いとして容認するものである。
因みに、老齢年金について同様の事情にあるものは、8年間で約17万件、約2400万円(甲第21号証、5/7の6列目)との調査結果がある。被控訴人は、原則に従えば、これを支給せず、利得していることになる。
障害年金について同様の事情にある者は、これと比べれば、少ないものと思われ、ほとんどの方が、本人に落ち度がなく不利益な取扱いとされているものであるので、これは早急に救済されなければならない。
仮に、救済を検討する場合、本件証人は、保険者が、救済すべき事情の事実等について確認等をする行為は、許されるものと考える。
老齢年金について例外が許される事情
@ 保険事故自体の存在及び発生時期の客観性
A 裁定請求すれば100%受給に結びつくこと、及び
B 被控訴人が失権防止に相応の努力をしていること
以上
証人の略歴
妻の障害基礎年金消滅時効問題について成年後見人法定代理人の本人訴訟として、名古屋高裁で逆転勝訴(平成24年4月20日)
最高裁第二小法廷において裁判官全員一致で上記判決が確定(平成26年5月19日)
この問題につき、訴訟前に、1年間以上にわたって保険者を説得したときの保険者の対応等に不満を持ち、自ら社会保険労務士になって、この違法な運用を改正させることを志し、労働社会保険について全くの未経験者であったが、試験合格後、事務指定講習を受講し平成23年10月1日に社会保険労務士登録をした。
登録後、労働問題、障害年金裁定請求代行等を受任しながら、消滅時効問題については、現在異議申立て事件を20件以上受任し申立て中である。裁判における係りは次のとおりである。
裁判における係り
@ 宮崎地裁 平成26年(行ウ)第4号 本人訴訟支援 直後に受任弁護 士が付く
A 福岡地裁 平成26年(行ウ)第14号 本人訴訟支援 間も無くして受任弁護士が付く
B 名古屋地裁 平成26年(行ウ)第30号 実父等と本人訴訟支援
C 広島高裁岡山支部 平成25年(行コ)第4号 控訴期限間際に、受任弁護士と受給権者の夫から相談を受ける
D 広島高裁岡山支部 平成26年(行コ)第11号 控訴審について、受任弁護士と受給権者の実弟から相談を受ける
E 金沢地裁 平成26年(行ウ)第6号 本人訴訟支援 間も無くして本人入院、受任弁護士は、独力で対応
F 名古屋高裁 平成27年(行コ)第6号 補佐人として、陳述書を提出、法廷で陳述したが、一書証として取扱われ、ほとんど無視された
G 福岡高裁 平成27年(行コ)第61号 補佐人として、控訴理由補充書を提出、初めて障害年金と老齢年金の違いが認められた。遺族年金の事案であったので、棄却された
H 神戸地裁 平成27年(行ウ)第57号 法定代理人成年後見人として本人訴訟
I 名古屋地裁 平成27年(行ウ)第74号 保佐人として提訴に同意を与え、本人訴訟支援
J 最高裁第二小法廷 平成27年(行ヒ)第75号 補佐人として、上告受理申立て理由補充書を提出
K 最高裁第二小法廷 平成28年(行ヒ)349号 補佐人として、上告受理申立て理由補充書を提出
管理職定年(平成10年3月31日)までNTTに務め、退職直前まで、約6年半、東海支社等において法務担当を経験した
その後、再就職(平成10年4月1日)先であるNDSリースにおいても、7年余にわたり法務担当を経験した。平成17年6月30日退職
平成23年10月1日 社会保険労務士登録
平成27年1月23日 一般社団法人 社労士成年後見センター愛知 理事就任
平成27年4月1日 特定付記
第1.
【1 原審は、国民年金法第16条の裁定は、「厚生労働大臣の裁定は確認行為であって、・・・、支分権も、基本権の発生した(年金を支給すべき事由が生じた)月の翌月以降の各支払期月の到来によって順次発生するものと解すべきである。」と説示する。これは、「当然発生型の行政処分」の内容を指しており(甲第4号証940頁11列目)、事実誤認がある。】につきまして
「年金を支給すべき事由」としている概念は、法18条1項において初めて用いられるものであり、法16条による基本権の成立を左右する概念ではないので、このことを明確に主張すべきです。
法18条は、基本権が成立してから後の始期月から終期月まで(1項。総支給期間)を、更に、この総支給期間を細切れにして分割支払をする支払期月(3項。支分権)を「年金の支給期間及び支払期月」として規定するものだからです。適用関係が転倒していて論外であることを明確に述べ、できれば相手の主張を予想し予防的・防御的に事前にこのような論述の展開が為されないように主張しておくべきと思われます。
ちなみに、法16条は、厚生労働大臣の裁定が完結した時点で基本権が成立すると規定する条文で す。
「裁定が完結した時点」とは、厚生労働大臣の発した年金決定通知書を裁定請求者が受理した日をいいます。従って、年金決定通知書を受け取っていなければ、裁定行為は完結しないから基本権は成立せず、支分権の消滅時効も進行する余地はないこととなります。
なお、併給調整により障害等級を変更した時及び本人死亡などの失権規定に該当する場合を除き基本権は消滅せず、支分権は二ヶ月分の年金額がセットされたまま、基本権の成立後の支払期月の到来とともに派生的に二ヶ月毎に成立し独立し続けるものです。このとき、いずれかの支分権に未支給額があれば、当然、この支分権については5年の消滅時効にかかります。支給の停止の措置を受けた場合でも年金額はセットされたまま支払いが行われないだけで支分権自体は成立し続けるので、基本権の消滅時効の適用は起こり得ないこととなります。
そして、法18条1項にいう「支給すべき事由が生じた日」と法102条にいう「支給事由が生じ た日」とは、文字面が若干異なるものの紛らわしく、同義ではなく、意味は全く異なります。前者の「支給すべき事由が生じた日」は年金の支給期間のうち支給開始月を特定するための日であって消滅時効の起算点としての法的性格を有する日とはなり得ず、後者の「支給事由が生じた日」は法102条により消滅時効の起算点となることを明確に規定しています。
いずれにしても、このような論述を展開されないように基本権及び支分権の成立過程に沿って丁寧 に(絶対に誤解・曲解される余地のないように)指摘又は主張すべきです。
第2.
【同法16条の裁定は、確認行為型の行政処分であり(甲第4号証940頁7列目)、既に存在している権利に変動を及ぼすことができる行政処分である(甲第4号証940頁左から1列目、左から4列目、及び左から1列目の反対解釈)ので、この処分があって、初めて、具体的債権である支分権が発生する(甲第4号証940頁6列目)ものである。従って、原審説示のようには解する余地がない。】につきまして
裁判官は憲法及び法律にのみ拘束されるので「誰が(例え著名な法律学者であっても)●●のように言っている、だから●●とすべきだ」という論法は通用しません(憲法76条3項)。原告は何の主張もしていないことに等しく、単なる解説に過ぎず被告も裁判官も無視することができます。同様に補佐人の陳述にも拘束されることはなく、あくまでも「原告は●●と思っている。」との主張を展開させる必要があります。なお、確認型行為であるか否かは行政法学的な論理の展開であって、これを行政現場への適用関係を法的に裏付ける規定が存在しないと、強力な主張にはなり得ないものと思われます。
第3.
【ここでいう、既に発生している権利というのは、法定要件を満たしたときに発生するとされている基本権であり、これは、支分権を生み出す抽象的、観念的な権利で、未だ具体化していないものである。法務省内訟務局内社会保険関係訟務実務研究会も、裁定前の起算点と裁定後の起算点を明確に区分して、「裁定前に支払期が到来したものについては裁定時(ただし、初日不参入))が起算点となる。」この両書証に書かれていることは、諸法制の全てに整合し、運用実態にも合致している。(甲第10号証)と、明言している。】につきまして
障害基礎年金において「未だ具体化していない基本権」なる権利は存在する余地がありません。具体化していないから「権利」とはいえず、従って消滅時効の対象ならないということを主張するのが裁判の目的のハズです。
第4.
【3 仮に、原審が説示するように、基本権の発生した翌月に、順次各支払期月が到来した都度、支分権が発生するとすれば、その受給権者は、その時から、支給の請求や時効中断の行為ができることとなるが、その方法は全く存在しない。】につきまして
支分権を遡及して消滅時効にかけるには、障害認定日の属する月の翌月の初日の到来とともに消滅時効が進行すると主張せざるを得ません。しかしながら、裁定請求日さえも遡って放棄させる主張なので、「時効の利益は、あらかじめ放棄することができない 」(民法146条)に抵触し違法な主張となりますからこのことはしっかり指摘しすることが欠かせません。
基本権の成立及びその成立後の支分権の設定課程を具体的にしてみます。
仮に、障害認定日が平成20年3月16日であるとすれば(この日は「支給すべき事由が生じた日」に該当しますが、基本権は未だ成立していない)、法18条1項に規定する年金の支給期間のうちの初年月はこの日の属する月の翌月の平成20年4月であり(この月が第一回目の支分権の成立した月ではない)、年金決定通知書を裁定請求者が受理した日が平成28年9月15日とすると、基本権の成立した日も平成28年9月15日であり、基本権に従属し派生する法18条3項に規定する第一回目の「支払期月」(支分権)はその直後に到来する平成28年10月となり(この展開は18条の1項にも3項にも明記されていないものの、支分権が基本権に従属し派生する関係から自ずから導きだされる)、その月の初日の到来とともに成立・独立するので、この日から消滅時効は進行し、その月末が支払い期限となり(実際には月中の15日に支払われています)、更にその翌月の初日の到来とともに履行遅滞が生じる関係にあります。
第5.
【4 原審は、「基本権に対する権利不行使を支分権に対する権利不行使とみなす」という法律的手法を用い、裁定請求(詰り、基本権に対する権利行使)の遅れた者に対し、支分権の消滅時効の完成を認めているが、基本権と支分権の独立性については、被控訴人も認めている事実であるので、支分権に対する継続5年間の権利不行使が存在しない支分権について、時効の完成を認めている原審判決は明らかな誤判決である。】につきまして
支分権は基本権の成立に関係なくその前から独立することはなく、あくまでも基本権の成立後に到来する支払期月の到来により初めて派生的・従属的に成立し独立する関係にあります(既述)。