2016年12月03日
正に 絶望の裁判所
11月30日(水)の名古屋地裁の判決は、原告が第2回期日の当日、第1準備書面を提出したその日に結審となった。裁判長から「この裁判は、これで結審にしましょう」と言われたのである。従って、原告の主張内容は全て理解した上で、納得のいく判決が下されるものと大きな期待をしたが、肩透かしにあった。
神戸の事件では、民法第158条1項の類推適用という、より判断し易い争点があったにも拘らず、7回の期日を経て結審している。本案のような、法解釈誤りという一般論で争う事件では、原告は、被告の主張や反論の矛盾を追及しながら真理を求めることとなる。このような裁判で、判決に論理の飛躍や論理矛盾があっては、負けた側は我慢ができない。
原審では、裁判官が事件の全容を理解していないにも拘らず、被告の反論の機会を1回に絞り、本来、被告が反論すべき内容を裁判所が代って説示している。これは、指揮権発動を超えた違法と考える。
従来の潜在的・抽象的観念論を一歩も出ていない旧態依然の絶望的な判決内容であった。せめて、結果は別にして、なるほどと思えるような理由を聞きたかった。酷いことに、原告が一番重要と考え、最優先している最高裁の考え方には全く触れられていない。これを否定しなければ、原判決はあり得ず、平成28年5月12日の福岡高裁の判決では、老齢年金と障害年金の実態の違いを認めたにも拘らず、全くこれにも触れずに、3ヵ月も待たせておいて、平然と進歩のない判決を下している。
瀬木比呂志著「ニッポンの裁判」では、原発訴訟、行政訴訟、及び刑事訴訟では、裁判官の7〜8割は、良心のみに従った心証に基づいて判決するのではなく、最高裁、及び最高裁事務総局の意向を慮って判決を下していると書かれている。
詰り、この意向に沿はない判決を下すと、人事で不利益になるとの誤った憶測(当っている面もある)で判決を下している裁判官が多いというのである。
本日は、少し長くなるが、判決文の納得し難い部分の紹介とこれらに対する私のコメントを掲載させていただく。ここでは、「私が今後どのようにしていくのか」ではなく、国や裁判所が、いかに不合理な矛盾した考え方をしているかを吟味していただきたい。
第1 国民年金法第16条の解釈誤りについて
原審は、標記について「国民年金法16条は、給付を受ける権利は、受給権者の請求に基づき厚生労働大臣が裁定するものとしているが、これは、画一公平な処理により無用の紛争を防止し、給付の法的確実性を担保するため、その権利の発生要件の存否や金額等につき厚生労働大臣が公権的に確認するのが相当であるとの見地から、基本権たる受給権について、厚生労働大臣による裁定を受けて初めて年金の支給が可能となる旨を明らかにしたものである(最高裁平成3年(行ツ)第212号同7年11月7日)第三小法廷判決・民衆49巻9号2829頁参照。すなわち、厚生労働大臣の裁定は、確認行為であって、基本権は、法の定める要件の充足という客観的な事実に基づいて、上記要件を充足した時点において当然に発生し、支分権も、基本権が発生した(年金を支給すべき事由が生じた)月の翌日以降の各支払期の到来によって順次発生するものと解すべきである。」(6頁下から12行目、下線は筆者が付した。以下同じ)と説示する。
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これは、原告も被告の主張を認めている通算老齢年金についての事案の引用部分であり、同条の最高裁の解釈は、確認行為型の行政処分(裁定)には、裁量権があり、既に存在する権利に変動を及ぼすことができるものであるので、裁定があって、初めて支分権が発生するというものである。
裁量権の有無については、不服申立の係争中に保険者が自ら「処分変更」をして来ることがあることからも証明できる。
第2 「各支払期」及び「支給事由が生じた日」の誤解釈について
原審は、標記について「したがって、支分権については、各支払期の到来時が「その支給事由が生じた日」であり、各支払月の翌月の初日が消滅時効の起算点となると解すべきである。」(6頁下から1行目)と説示する。
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過去分の各支払期は、架空の支払期であり、裁定請求時に到来することはない。遡及5年分とそれを越える訴求分の支払期月を異なる支払期月とする根拠がない。過去分の支払期は、遡及5年間分とそれを越える分を含め1回しかない。
第3 「裁定は確認行為にとどまること」及び「支分権の発生時期、金額については明確な規定が設けられていること」に対する反論
原審は、標記について「基本権の発生要件や支分権の発生時期、金額については明確な規定(国民年金法18条、30条、33条等)が設けられていることを併せ考慮すると、年金を支給すべき事由が生じた後は、受給権者が基本権についての裁定の請求をしなかったとしても、支分権は、その支給すべき事由が生じた日の属する月の翌月から支給を始めるものとして、順次潜在的・抽象的には発生するものと観念することができる。」(7頁7行目)と説示する。
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確認行為については、第1と同じ。発生時期、金額については、裁定請求時に分かっていなければ意味がなく、明確な規定とはいえない。これが不明の内は、債権が具体化しないので、保険者が自主的に支払うことも受給権者が、請求することもできない。
第4 「裁定の請求をした上で裁定を受けさえすれば、支分権を行使して年金の支給を受けることができるのであるから、・・・」に対する反論
原審は、標記について「裁定の請求をした上で裁定を受けさえすれば、支分権を行使して年金の支給を受けることができるのであるから、支分権を行使するに当たり裁定を受けることが条件になっていると評価することができず、裁定を受けていないことは、支分権の行使についての法律上の障害に当たらないというべきである。」(7頁下から10行目)と説示する。
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裁定をしても裁定されないことがある(厚労省発表資料でも12.5%もある)から問題にしているのであって、意味不明!?
裁定請求して認められない場合が、例え1件でもあれば、このような理由で基本権に対する権利不行使を支分権に対する権利不行使とみなすことはできない。実際には、12.5%もの不支給があるのに、無理矢理基本権に対する権利不行使を支分権に対する権利不行使と混同させているのだから論理の飛躍は明らかである。
障害年金が老齢年金のように、裁定請求さえすれば受給されるものであれば、提訴などしない。
第5 「このように解することは、年金時効特例法2条が、・・・裁定前であっても。支分権の消滅時効が進行し、裁定前に消滅時効が完成するという事態があり得ることを所与の前提としていることとも整合する」に対する反論
原審は、標記について『なお、このように解することは、年金時効特例法2条が、「支払期月ごとに又は一時金として支払うものとされる給付の支給を受ける権利について当該裁定までの日に消滅時効が完成した場合においても、当該権利に基づく給付を支払う」ものとしており、裁定前であっても。支分権の消滅時効が進行し、裁定前に消滅時効が完成するという事態があり得ることを所与の前提としていることとも整合するものである。』(7頁下から6行目)と説示する。
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逆からの証明、事後にできた不完全な法律との整合性に何の意味があるか。そもそも、年金時効特例法は、裁定前に支分権の消滅時効が進行することを前提としていない。(適用分は、例外なく、全て、再裁定又は裁定の訂正を要する。従って、裁定前には、支分権は未認識・未発生)
本項については、未だに意味を成さない判決理由が横行しているので、少し長くなるが、これが理由にならないことを特別に付記する。
「原審は、年金時効特例法第2条の規定は、「裁定前であっても支分権の消滅時効が進行することを当然の前提としている」と判示しているが、それは全くの誤りである。
年金時効特例法は、単なる請求漏れには全く適用されない。同法は、新たに発見された記録について、当然に消滅時効の完成がなかったものとするのではなく、いわゆる年金記録の訂正がなされ、かつ、それに基づく裁定(裁定の訂正を含む)がされた場合に初めて支給がされるというものである。
詰り、訂正された記録に基づく裁定があった時から、訂正された部分についての支分権の消滅時効が進行する、というものである。
いわゆる記録訂正によって救済されるケースは、そもそも(訂正される前)の支分権発生時(裁定請求時)には年金記録として認識されておらず、裁定請求の対象になっていなかった部分が、後日、年金第三者委員会の判断等を経て、記録ありと判断されたケースである。
従って、該当訂正記録部分は、全てが、それまでは裁定請求が行われていなかったものであり、当該部分に関する支分権は発生していなかったことを意味するものであるから、「裁定前であっても支分権の消滅時効が進行することを当然の前提としている」訳ではない。
訂正後の支分権が発生するのは、記録を訂正し、再裁定を行った時点である。再裁定の時に支分権が発生するのであるから、訂正前の裁定に基づく時効には関わりなく、再裁定時に、訂正後の記録に基づく過去の分が遡って全額支給される、という取扱いであり、これは、原告が主張している内容と一致する。
また、この問題は、保険者の職員の不祥事等により、現実の社会問題を急ぎ救済することを目的に、極めて短期間に議員立法により作られた法律であり、多面的に審議が十分に尽くされた立法であったとは認め難いものである。
また、内簡発行時からの問題を、その後の立法により律することはできず、整合性を検討する価値もない。
以上の次第で、年金時効特例法は、「裁定前であっても支分権の消滅時効が進行することを当然の前提としている」ものではない。
ことほど左様に、本案に係る国の主張は悉く間違っており、合理性・整合性がなく、矛盾だらけのものである。従って、平成24年4月20日名古屋高裁判決が被控訴人(国)の主張の一つなりとも採用しなかったのである。」
第6 「本件内簡の内容が、法令等に違反するものとは認められず、本件内簡が法令でないことは、前期(3)の判断を左右しない。」に対する反論
「原審は、標記について「以上を前提として検討すると、・・・原告が裁定の請求をした時点において5年の消滅時効期間が経過していたと認められる。」と説示する。(8頁下から12行目)
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本案では、上記に示されているように、障害年金については、「裁定の請求をした時点」の状態が一番重要である。この時点において、支分権に対する権利不行使がないことは自明であり、基本権と支分権を混同すべき事由もないので、内簡の内容は違法である。
なお、原告の主張は、内簡が法令でないことよりも、内簡の内容が違法であることを非難しているものである。
第7 原告の「支分権の支払期月」に係る主張に対する説示
「しかしながら、上記@の点(支分権の支払期月)については、国民年金法18条3項ただし書は、裁定の手続の遅れ等により、本来の支払期月に支払われなかった年金(支分権)の支払時期について定めたものにとどまり、支分権の発生時期を定めたものではない。また、支分権の発生時期と支払期(遅延損害金の発生時期)とは異なるものであって、本件裁定がされるまでは、本件裁定前に発生した支分権については、支払期は到来しないから、上記支分権に係る遅延損害金は発生せず、原告の主張を採用することはできない。」と説示する。(9頁13行目)
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原告の主張は、裁定時には、支払期は未到来とするものであるから、この説示そのものである。本案は、正に、期限未到来の年金であるから法律上の障害に当る。
上記説示では、発生時期を重視しているが、本案で問題にすべきは、納期(支払期月)である。
第8 原告の「裁定の性質及び帰責性」の主張に対する説示
「上記Aの点(裁定の性質及び帰責性)については、・・・翌月から支給を始めるべきものとして、順次潜在的・抽象的には発生するものと観念されるところ、受給権者は、基本権について裁定の請求をすることについては法律上の障害がなく、裁定の請求をした上で裁定を受けさえすれば、支分権を行使して年金の支給を受けることができるのである。」と説示する。(9頁下から7行目)
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障害年金が裁定請求すれば、全て裁定されるものであれば何の問題もない。裁定請求しても裁定されないことが多いから問題としているのに、裁定を受けさえすればとの仮説を立て推論を進めることは、論理飛躍があり違法である。
本案は、支分権の消滅時効の問題であり、被告も基本権と支分権は独立した権利であると認めているのであるから、素直に、支分権について権利不行使があったのかどうかを検証すれば足りる話である。
潜在的・抽象的観念論を持ち出す必要があり、その道理が通るのは、既述の3つの理由(割愛)がある老齢年金の場合だけである。
第9 原告の「内簡内容違法」に対する説示
原審は、標記について「上記Cの点(内簡の違法性)については、本件内翰の内容が、法令等に違反するものとは認められず、本件内翰が法令でないことは、前記(3)の判断を左右しない。」(10頁9行目)と説示する。
コメント
継続5年間の権利不行使がない年金を、権限なく支給制限しているのだから、違法は明らかである。
第10 「特別な行政措置を適法とする原審の違法」について
原審は、標記について「上記Dの点(社会保険審査会の裁定前には支分権の消滅時効は進行しないとする見解)については、証拠(乙8)によれば、遅くとも平成25年7月31日以降、社会保険審査会が年金の裁定前には支分権の消滅時効は進行しないとう考え方や、裁定の請求から5年以上前に発生した支分権につき年金を支払わないことは特別の法律に基づかない行政措置であるという考え方を採っているとは認められない上、支分権の消滅時効に関する解釈は、前記(1)で判示したとおりであって、被告が消滅時効を援用することが、法律に基づかない特別な行政措置ということもできないから、原告の主張を採用することはできない。」(10頁11行目)と説示する。
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上記によれば、平成8年以降平成25年7月30日までは、裁定前には支分権の消滅時効は進行しないとう考え方を認めていたことになる。原告は、社会保険審査会の見解変更に拘らず真理は不変と主張しているのだから、どちらが真実かと、その理由を述べなければ判決理由を示したことにならない。
原告は、既に控訴の意思表示をしているので、私は、保佐人としてこれに同意を与え、約50日かけて効果的な控訴理由書を作成していくことになる。
posted by 326261(身にロクに無い:身に付いていない:電話番号!!) at 22:01| Comment(0)
| 1 障害年金
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