一昨日、唯一受任している遺族年金の消滅時効に係る事件での上告受理申立てが受理されなかった旨の通知を受任弁護士の先生から受けた。またもや、正に、「判断しない最高裁」である。
本日は、少し長くなるが、私が、今度こそ、腰の重い最高裁も判断を下さなければならない筈だと工夫を重ね提出した「上告受理申立て理由補充書」の一部を抜粋して掲載する。全文を掲載すると10枚を超えてしまうので、第3以降は、タイトルだけとさせていただいた。なお、受任弁護士が上告受理申立て理由書を提出していることは言うに及ばない。
上告受理申立て理由補充書
平成28年7月15日
最高裁判所 御中
上告受理申立人補佐人 木戸 義明 ㊞
本書では、以下の3点につき申し述べる。
@ 本申立てが受理要件に該当すること
A 本案を巡る問題が、司法及び行政で大きな問題と化している事実
B ほとんどの高等裁判所で誤った事実認定及び誤った評価・判断が下されており、中には、本論とは別の理由で結論ありきの判決が下されている事実
第1 受理要件該当性について
1 原判決に最高裁判例と相反する判断があること
原判決は、本件裁定は、「長官が公権的に確認する行為にすぎず」(4頁14行目)、「裁量的判断を含まないものと解される」(4頁17行目)と判示する。しかし、この判断は、最高裁判所の判断に反するので、以下で詳述する。
厚生年金及び国民年金に係る裁定の法的性質について考察された最高裁判例は、一つしかない。この判例については、後日、最高裁判所判例解説(甲第50号証)に掲載され、本案の議論の中心となる裁定の法的性質について詳しく解説されている。
この解説では、社会保険関係給付の受給権が実体法上いつどのようにして発生するかは、その性質から当然導き出されるものではなく、結局、立法政策により決せられるものである。現行制度は、次の3類型に分類できる(成田頼明ほか編・行政法講義下巻173頁[高田敏執筆]参照)。
(1)形成行為型 (2)確認行為型 (3)当然発生型
この内、国年法第16条(厚年法第33条)の裁定は、(2)確認行為型とされており、この受給権は、行政庁による認定、決定、裁定等の確認行為によって初めて具体的権利を発生させることとしているものであるので、裁定前には発生していない。加えて、確認行為型における確認行為も、これがなければ結局具体的受給権が発生せず、その行使が不可能であるから、行政処分に当たるものと解される。
これに対して、(3)当然発生型では、実体上の権利の発生等は、行政庁の行為をまたずに法律上当然に発生するから、そこに行政機関の行為が介在しても、それは既に発生している権利等に変動を及ぼすものとは考えられず、その処分性を肯定することはできない(939頁から940頁)とされている。
ところが、福岡高裁も相手方も、縷々説明する消滅時効完成理由は、裁定の法的性質を上記(3)の当然発生型と誤認した主張・説明をしており、法解釈を誤っている。
2 高等裁判所の判断が割れていること
本案の中心的争点は、裁定前に支分権の消滅時効が起算されるのか否かにある。平成24年4月20日の名古屋高裁判決(甲第7号証)は、裁定前には支分権は具体化していないので、この状態では権利行使できず、未裁定の状態は、時効進行上の法律上の障害であり、支分権の消滅時効の起算日は、年金決定通知書が受給権者に届いた日の翌日であると判示する。そして、この考え方は、上記の最高裁の考え方とも合致しており、他の関連事項とも整合している。
しかし、原審を含め多くの下級裁判所では、回りくどい理屈を付けて、基本権に対する権利不行使を、支分権に対する権利不行使と混同させ(みなし)て、未裁定の状態であるにも拘らず、支分権についても、継続5年間の権利不行使があったと判断し、本案支分権の消滅時効は完成していると判示している。
この判断は、基本的な重要な判断であるので、本来、法律解釈を職責とする高等裁判所で割れていてはならない事柄である。
このような状況下、いつまでも貴庁が判断を下さないのは、訴訟経済上も多大な損害が発生する原因となっており、社会的にも大きな問題である。
3 本案は、その他の法令の解釈に関する重要な事項を含むものと認められる事件であること
本案については、この権利自体が、老人、寡婦、及び障害者に係る重要な権利(譲渡、差押え、担保も禁止され、障害年金及び遺族年金に至っては公課も禁止されているほど)であり、最も遵法精神が問われる国家による違法行為が公然と長年続けられているという特異な事件であることに鑑み、貴庁が判断を示すこと自体に重要性が認められる事件である。
第2 本案は既に司法及び行政の大きな問題と化していること
本案は、年金支分権の消滅時効の問題であるので、本来支分権について、継続5年間の権利不行使があったのかなかったのかを認定すれば十分である筈の単純な問題である(本書では、直接、支分権について継続5年間の権利不行使があったかどうかの論説を「正論」という)が、年金法の不備もあり、単にそのような判断では、公正が保てない現実が現れてしまい、ほぼ相手方の主張を認めた、下記の判決が示すような、正論とは別の論理〔本書では、本案は支分権の問題であるのに、これを基本権の権利不行使の問題と混同させ(みなし)て、基本権に対する権利不行使を支分権に対する権利不行使とする論説を「曲論」という〕が構築された。
@ 東京高等裁判所平成23年4月20日判決(乙第11号証)
A 東京地方裁判所平成22年11月12日判決(乙第12号証)
しかし、これは、老齢年金(通算老齢年金)の事件であり、老齢年金の一般的な事情の場合は、補佐人もこの論理を許容しているが、それは、一般的な老齢年金の場合にのみ認められる例外的な論理構成といえる。従って、この解釈が許されるのは、一部の例外である筈が、これを原則であるかのごとく、これとは実態の合わない障害年金や遺族年金にも拡大解釈した下級審判決が普遍化し、最早、法治国家とは言い難い大変な現状となっている。
補佐人が既に提出している賛同者は一部の例であり、刻々と事態は変わっており、最近だけでも2件の資料要請(参考1及び2)があり、本件補佐人が法定代理人成年後見人として争った事件(甲第7号証)の謄写記録等(参考3)でも、遠方からも名古屋地裁まで謄写申請に来ているのが現状であり、年金マスターの資格を持つ先輩社労士も、「いずれは、国も法改正等余儀なくされるものと確信していますが、・・・」(参考4)と補佐人の考え方に賛同してくれている。
第3 ほとんどの下級審における事実誤認及び誤判断の実例について
1 原審の事実誤認及び誤判断
(1)判決文の明白な誤りカ所
(2)判決文の黙示的な誤りカ所
ア 相手方の運用根拠は「内簡」又は「特別の法律に基づかない行政措置」以外にはないこと
イ 個別の時効援用がないのに時効消滅させていること
2 喉頭がんの事例を実態の異なる精神障害の事案に当て嵌めたカンニングペーパーのような不適切な高裁判決について
3 遡及方法を年金制度の在り方と連結させた誤判断による高裁判決について
以上
平成22年11月22日付調書(決定)には、5人の裁判官全員一致の意見で決定した旨、及び「本件申立ての理由によれば、本件は、民訴法318条1項により受理すべきものとは認められない。」等と書かれている。しかし、本当にそうなのか。
同条同項によれば、「原判決に最高裁判所の判例(これがない場合にあっては、大審院又は上告裁判所若しくは控訴裁判所である高等裁判所の判例)に相反する判断がある事件その他の法令の解釈に関する重要な事項を含むものと認められる事件について、申立てにより、決定で、上告審として事件を受理することができる。」とされている。
本書冒頭に記載したように、上記のいずれの条件も満たしている。この判断については、判決理由ではなく、主文について条件を満たしている必要があるという考え方もあるかもしれない。しかし、仮にそのように考えた場合でも、第1の 2の事実がそれを満たす。
最高裁が判断から逃げていては、地裁である第一審で徹底的に議論して勝訴するより方法はないことになる。見方によっては、最高裁は、これは勝敗は明白であるので、「下級審段階で決着をつけなさい」といっているのかもしれない。
私は、近く予定されている11月30日(水)の名古屋地裁判決においても、来年1月17日(火)の神戸地裁の判決においても勝訴を確信しており、これから提訴予定の他の裁判においては、改正社会保険労務士法(平成27年4月1日施行)の補佐人制度の新設という援護射撃もあるので、以後の裁判では、第一審で徹底的に議論して、必ず勝訴判決を勝ち取る決意である。
1.支分権の成立日につきまして
国民年金法(以下、法)18条3項によりますと
「3 年金給付は、毎年二月、四月、六月、八月、十月及び十二月の六期に、それぞれの前月までの分を支払う。ただし、(以下略)」(以下、支払期月)として、支分権の成立月を規定しておりますから、
法16条による厚生労働大臣の裁定が確定した日(裁定請求者が年金決定通知書を受領した日)の直後に到来する支払期月が到来したとき、即ち、支払期月の初日の到来と共に支分権は成立することになります。
従って、基本権の成立した日から支分権の成立する日の前日までの間は支分権成立の空白期間となります。年金決定通知書を受領した日に直ちに成立するとの見解を裏付ける規定は見当たりません。名古屋の判決の根拠規定は?
2.年金法に不備はあるか?
支分権が成立すると、当然ながら、法102条第1項の適用対象となり消滅時効はその成立した日より進行します。
第一回目支分権の成立・独立、第2回目以降の支分権は、通常、2ヶ月ごとの偶数月の到来と共に成立・独立し、月末を支払期限とするものの実際には月中の15日に支払われていますが、振り込み不能等により支払が出来ずに未支給となってしまう場合があり得ます。年金額の計算違い(例:裁定後支払期間の算入漏れ、規定の適用誤謬)となる場合もこれに該当します。
これらの未支給について、消滅時効の対象とすることを法102条第1項で規定していると解するのが自然です。
従って、消滅時効の規定に関する限りでは、年金法には何等の不備のないということになりますから、これを理由とする訴えは認められないことにならざるを得ません。
ただし、消滅時効とは別に、やむを得ない場合を除き支給を制限する「期間制限」の制度を設けるべであるということであるとすると、法定外における論議としてはあり得るものと思われます。
元来、障害基礎年金における基本権は、一旦成立すると次の場合を除き、その権利が消滅する規定は設けられていません。従って、一旦成立した支分権は、次に該当する場合を除き、不動の権利として独立していることになります。
なお、「受給権者が障害等級に該当する程度の障害の状態に該当しなくなつたときは、その障害の状態に該当しない間、その支給を停止する」とされております(法36条〜36条の4)。
(1)併給の調整
新たな裁定が下された場合における従前の障害基礎年金の受給権は、消滅する(法31条2項)。
(2)失権
受給権者が次の各号のいずれかに該当するに至つたときは、消滅する。(法35条)
一 死亡したとき。
二 (略)
三 (略)