2016年01月23日
社会保険審査会は厚労省の傀儡か
これは、私達が目の当たりにする障害年金の裁定に関する意に沿わない裁決の話ではない。やはり、この話も消滅時効の問題である。
私は、一つの争点として、障害年金の支分権の消滅時効が、裁定前に進行するかどうかについて国と争っているが、本日は、これに関連した社会保険審査会の判断について考察する。具体例は、社会保険審査会の先例であるが、私にはどうにも理解できない苦し紛れの判断と思われる措置がされているので、その正否を問題にする。
ある先例(平成8年11月29日)において、当時の審査会は、次のようなまともな判断をしている。「基本権は裁定権者の裁定をまって、はじめて具体的権利として確定し、その支分権を行使することができるようになるのであるから、基本権の発効前に所定の支払期月が到来しても、その支分権を行使することはできない。したがって、この状態のもとでは支分権の消滅時効は進行しないものと解すべきである。」と私と全く同じ考え方をしているのである。
ところが、続きがある。「 基本権について 裁定を受ける権利は厚年法92条 1項の規定により 5年を経過したときは時効により消滅することになっている。本件の場合、この規定を適用すると、請求人は通算老齢年金については裁定を受けることができなくなる。保険者は、それでは余りに酷であるとして、 行政措置によりこの規定を適用しないこと(時効の利益の放棄)にしているが、さればといって長期間が経過した支分権ついてまで無条件に支払いを認めるのは適当でないとして前記のように一部の支分権の支払いを行わないとする行政措置をとってきたものと認められる。」当審査会としては、「この行政措置は妥当なものと考える」ので、「本件通算老齢年金の裁定は妥当なものである」としている。
上記の事実は我が国で認められていない、司法取引(基本権の時効援用をしないとする行政措置と何人にも権限のない支分権の支給を5年間に制限するという特別の法律に基づかない行政措置との取引条件)を社会保険審査会が行っているに等しく、明らかに違法である。もとより、保険者に公共の福祉に供すること以外で国民の権利を制限すること(上記でいう「行政措置」)は認められておらず(憲法29条2項)、これを是認する権限は社会保険審査会にはない。
審査会の審査長は、高裁の部長等の経験者が就いており、現職時代にも裁判官として相当の活躍をされた方であるとお見受けするのだが、なぜこのような判断になってしまうのか、私には理解できない。審査会の委員の人事権は、厚生労働大臣にあり、自らの保身のためになせる技か、これが公正な判断との信念に基づくものか、見当もつかない。
審査会は、幾ら難しい案件でも、判断を放棄することはできず、法律上、容認か棄却か却下の内の一つを選ぶ道しか選択肢がないので、本来あるべき姿として棄却を選んだものと推測できる。ところが裁決には理由を付さなければならないので、理由付けに苦慮して、このような無理矢理の理由を付したものなのかもしれない。おそらく、無制限に遡及を認めると、社会等への影響が大き過ぎるので、苦し紛れの理由付けであると思われるが、ここは、審査会がこのような措置が最善と考えるのであれば、立法の手続きを経て行うべきであったと付言するべきであったと私は考える。
結果、この場合の支分権の支払いを制限する必要がある(無条件に支払いを認めるのは適当でない)と考えた場合、遡及何年分の支払いを認めるのが妥当であるかは、全く別の問題であり、「これに関する時効期間を、例えば、一般債権と同じ10年にするとか、除斥期間並みに20年にするとかは、上記のとおり、立法の手続きを経て決めるべきである」(これは、今からでもなすべきことである)というのが私の見解である。
正しい運用にすれば支給額が増し、積立金を取り崩さなければならない事態も想定されるが、私は、特段の事情ありと認められる老齢年金についてまで不適当・違法であるとは主張していない。社会保障を担う国が、支払うべき年金を支払わずに利得するという行為はあってはならないことであり、国の立場でこれ以上違法行為を続けることはできない。
侵害されている権利が、障がい者、寡婦、及び高齢者等に対する国民の重要な権利であることも大きなことであるが、率先して法を守らなければならない公の機関としては最高の地位にある国が公然と違法行為をしているのだから大問題である。
この支分権については、権利行使の機会が全くない内のみでなく、自分が障害年金や遺族年金をもらえることが想像もできなかった人から、その人の支分権を奪ってしまっているのだから問題である。時効消滅していない年金について 、既に具体化した個人の財産権を侵害しているのだから、違法どころか憲法違反(第29条1項の財産権の侵害)に該当し、構成要件も満たしている。 保険者の見解に立っても、年金決定通知書が届いてから5年間が経過すれば支分権は時効消滅するのであるから、私の考え方に改善しても。時効制度の趣旨や法制上何の問題もない。
結果、審査会は、保険者が行った違法及び憲法違反を是認してしまったのだから、これは審査会の越権行為と言わざるを得ない。
posted by 326261(身にロクに無い:身に付いていない:電話番号!!) at 09:06| Comment(0)
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