2014年12月06日

北は北海道から南は九州まで

 従来、消滅時効問題に関する遠方のお客様は西に多くみえた。例えば九州では宮崎県にお二人と福岡県にお一人である。東の際限は、岩手県寒河江市であったが、今週の新しいお客様は、北海道札幌市である。遂に津軽海峡を渡って、北海道に縁ができた。

 思い返せば、一昨年、4月20日の名古屋高裁での勝訴判決を翌週いち早くグログで的確に照会してくれたのは、当地の「さむらい(士)さんのお仕事」である。ご当地の弁護士事務所や司法書士事務所等から資料照会があったり、関係通達等の出典を協力して探ったりしたことはあったが、運用改正なり法改正を目指す私のお客様になってくださったのは今回が初めてである。有難いことと感謝している。

 ご本人のお父さんからの依頼であるが、先の判決を翌日の北海道新聞で知り、当時、私にも照会があったが、その後約2年間以上経っても依頼にまでは至っていなかった。お聴きすれば、お父さんは81歳でお母さんは79歳とのことである。ご本人もご家族の方も、インターネットもメールもやっていないので、どのようにして私を知ったのかに興味が湧きをお聴きした。近くの弁護士に相談したところ、私を紹介されたと言われる。

 弁護士の先生が直接お受けしないのは、二つの理由が考えられる。一つは料金、費用との関係で、一般的には経済的弱者の多い障害年金受給権者等には、弁護士の先生にお願いするほどの経済的余裕がないことが予想される。今一つは、不慣れな年金について、勝ち取るまでの主張内容と書証の準備が頭に浮かばないことが予想される。

 前者の事情は仕方ないことと思うが、後者の事情は、当初私は、これは「コロンブスの玉子」で、一たび玉子を立ててしまえば、関係者全員が「なるほど」と納得し、いとも簡単に運用改正なり法改正に行き着くものと思っていた。私なりに、虚構を暴いた積りでいたが、実は全然進んでいない。

 最高裁の判断が出て半年以上経っても、そのような環境にはなっていない。その原因は、厚生労働省が、名古屋高裁の判断は間違っていると判断していることにある。同省に言わせれば、名古屋高裁は、国の法解釈誤りという一般論について、主位的に判決理由で述べているが、最高裁は、その部分ではなく、民法第158条の類推解釈等についてのみ名古屋高裁の判決理由を支持したものであるという。

 確かに、色々な先生がみえ、東北大学の岳さやか准教授は、国の考え方を支持して、今年のジュリスト5月号「労働判例研究bP226号」にその旨を掲載されている。また、私が、縁あってお願いした、ある弁護士の先生は、ご本人の体調の問題もあったのだが、その方の良心として、やれるだけのことはやった後だが、私や依頼者の事前了解なしに裁判所に離任届を出された先生もみえるくらいである。その弁護士先生に言わせると、他の先輩弁護士や、大学の教授の協力がなければ勝てないと言われる。ご自分の腹に落ちない内に、違った考え方を主張することは弁護士としてできないとも言われた。

 しかし、国が勝って来た多くの裁判例や、先のお二人の意見は、老齢年金の一般的事情についてのみ例外的に認められる理論構成を、それとは実態の異なる障害年金等にまで拡大解釈した理論であり、原則と例外を履き違えた主張である。

 一言で言えば、受給権者が権利不行使であったのは、基本権についてであり、支分権についてではない。この権利不行使を支分権にまで接続(消費者契約法でいう「抗弁権の接続と同じ意味の接続」)できるのは、特段の事情のある場合のみであり、当然には接続されないのである。

 結論から言って、最近見付けた有力な書籍には、私の考え方と全く同じ考え方が、既に平成11年に著されているのである。「社会保険関係訟務の実務」(252頁左から4列目)において、支分権の消滅時効は、裁定前には進行しない旨が明記されている。

 この書籍は、法務省内の社会保険関係訟務実務研究会が著しており、法務省訟務局行政訟務第二課長が、「はしがき」において、訴訟において争点とされる実体法上の問題点を記述しているので、社会保険実務関係者及び訴訟関係者に広く利用されることを期待する旨意思表示している。

 この点につき具体的表現を引用すれば、消滅時効の起算点について、民法第166条1項の適用を前提として、「国年法及び厚年法上の年金の支分権の消滅時効の起算点も右の原則に従い、裁定後の分については各支払期月の到来した時であるが、裁定前に支払期が到来したものについては裁定時(ただし、初日不算入)が起算日である」と申立人の主張内容と全く同じ見解が示されている。

 この書籍の発行年月日は、平成11年5月30日であるので、「本村年金訴訟上告審判例」(平成7年11月7日)の約3年半後であり、この判決の考え方と合致していることを確認して著されている可能性が相当に高い。
posted by 326261(身にロクに無い:身に付いていない:電話番号!!) at 21:21| Comment(0) | 1 障害年金
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: