10月4日(土)の本ブログの終わりの方で紹介させていただいた神戸の藤原精吾弁護士先生のご配慮で、「社会保障と賃金」10月上旬号掲載の「消えた年金執念の33年間」を読ませていただいた。この業務を専門にしているものとしては、有難く、恥ずかしいことであるのかもしれないが、この雑誌自体を読ませていただくのは初めてである。
予想どおり、公的年金の消滅時効問題について詳細に書かれていた。先生が代理人を務め、消滅時効完成理由による未支給の遺族厚生年金の約23年間分、約2,200万円を支払うよう請求していた事件で、第1審で本年5月29日に勝訴され、既に、判決が確定している。
この事件の概要については紙面の関係で割愛させていただくが、先生は、事件の経緯上3つの請求原因(@時効特例法の適用、A国の消滅時効援用は信義則に違反、及びB国家賠償法に基づく損害賠償請求)を立てて争ってこられた。これに対して、被告国は、全ての請求原因に対して、屁理屈とも採れるような反論をして争ってきたが、裁判所はAを理由として原告勝訴の判決を下した。ところが、他の2つの請求原因については原告の主張を採用しなかったのである。
先生から見ても、私から見ても、他の2つについて、根拠があり理由があるのだが、裁判所は、国の主張する支分権の消滅時効の起算点について、不合理を感じながらも、ほぼ国の主張を採用したことになる。なぜAの時効援用信義則違反の理由のみについて原告勝訴の判決を下したのか。これについては、藤原先生は、他の2つを採用すると、国は必ず控訴をしてくるので、原告の長年の苦汁等の事情を考え、控訴の確率の最も少ない判決理由とされたものと好意的に解されてみえる。
この事件は、亡夫の遺族年金の請求について、年金手帳を持参し、社会保険事務所に何度も申し立てをしていたのに、年金記録がないという理由で断り続けてこられた事件である。これに対して藤原先生は、上記の3本立てで請求原因及び理由の主張構成をされたのだが、これを読ませていただいて、多くの弁護士の先生と私との遣り取りを考え合わせると、弁護士の先生の請求原因は、私の主張の構成とは全く違うということを改めて認識した。
私は、第一に、年金法自体の法解釈誤りを請求原因として請求している。そして第二に社会保険審査官等が判断を下し易い個別事情を挙げている。第一を強く主張すればするほど、第二の理由も容認され易くなる筈である。この判決後も、先生の所には10件以上の問い合わせがあったと書かれているが、先生は いずれも、本件で扱ったような事情ではなかったと諦めてみえる。しかし、私の方式で行けば、国の不支給は、第一に年金法の解釈誤りであるので、諦めるのは早過ぎるのである。詰まり、裁定から5年以内であれば、老齢年金の一般的な事情の場合を除き、全て受給権が存在しており請求できるのである。
少し専門的になってしまうが、私がこの記事を読ませていただいて深く興味を持った点が二つあった。一つは、法務省訟務局内社会保険関係訴訟実務研究会「社会保険関係訴訟の実務」(三協法規出版) 1999年252頁 には、公的年金の消滅時効の起算点について「裁定後の支分権は、各支払期の到来時であるが、裁定前に支払期が到来したものについては、裁定時が起算点となる」との見解が判示されていることである。今一つは、厚生労働大臣官房年金管理審議官発 日本年金機構理事長宛 年管発0907第6号(平成20年9月7日) 「厚生年金保険の保険給付及び国民年金の給付を受ける権利に係る消滅時効の援用の取扱いについて」という文書である。
前者の内容は、正しく私が主張しているところであり、後者の内容は、国会答弁の内容を受けて作られたものと思われる。後者については、平成19年7月7日以降に発生した受給権に関して時効援用するかどうかは個別の事情を検討して判断する旨述べられている。しかし、この日以後に受給権を取得した者に適用とするのはおかしな話である。これを会計法が適用になれば、援用を要さず自動的に消滅時効が完成すると解釈するのは短絡的に過ぎる。なぜなら、時効の援用は、時効の完成要件を満たしてからの問題であり、まだ本件時効期間の5年が未経過の私が問題にしている支分権には、この論理は通用しないからである。
2014年10月18日
公的年金の消滅時効をめぐる裁判の論点
posted by 326261(身にロクに無い:身に付いていない:電話番号!!) at 05:12| Comment(0)
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