2014年08月02日

節操のない社会保険審査会

 昨日、社会保険審査会からの棄却裁決が届いた。審査会は、例の時効問題に関する再審査請求を、審査に入る前の受理できるかどうかの要件審理の段階で門前払いした。しかも、この単純な審査に半年かけた後の措置である。審査会には、立派な先例があり、公開審理もあるので、ある程度、正義と道理を重んじる所かと信じてきたが、少なくとも今のメンバーは、新しい主張となる根本原理を把握し切れていないし、御用学者のような見解である。

 あるいは、なお書きで追記された、仮に審理を進めたとした場合の見解によると、裁判で国が勝訴したケースの判決理由とほとんど違わない内容が書かれているので、請求人の新しい主張を深く吟味していない可能性もある。しかし、名古屋高裁が私の主張内容をしっかり把握してくれたことを考えると、私の表現が足りなかったからとは考えにくい。当時と比べて書証等も大幅に充実しているのだから。裁判のように、相対する立場のものが議論する場がないので、受取る側が問題点を理解しないとどうしようもない。裁判の場ですら誤解が付き物であるからある程度は仕方ないことかもしれない。

 この事件の依頼者は、友人の社労士が連れてきてくれた方で、障害基礎年金の裁定(決定)後60日以内に審査請求した案件である。社会保険審査官とは3回も面談説明をしているが、これは、公開審理のある審査会で審理をしてもらった方が良い案件だとの意見であった。すると、この結論は、何らかの理由を付した棄却処分しかあり得ず、受付け後60日経過を待ち、速やかに再審査(飛躍)請求した。

 裁定(決定)通知書中の「時効理由不支給通知部分」の性質については、全く正反対の2つの考え方がある。1つは、今まで、保険者の窓口や、ある事件で審査会の示した見解(裁決例による社会保険法 加茂紀久男著)である「この部分を含めて行政処分である」とする見解(後者では、特別の法律の規定に基づかない行政措置と表現している。74頁9行目)と、国が裁判等で釈明している、この部分は、単なる事実の通知であって、「行政処分ではない」とする見解である。

 この却下は、審査会が前者の考え方を理不尽に節操もなく捨てて、後者の考え方を採ったものである。しかも、代理人が最高裁の調書(決定)を送ると共に、審査会が突然、後者の見解を採り、本件請求を却下することを最も恐れている旨伝えたところ、恥ずかしくもなく、これに乗って来た感じだ。要件審理で却下するのに、単に「本件は行政処分ではない」ことを理由にするのであれば、その審査に6カ月もかからない。

 しかし、実は、この部分が単に事実を通知した事実行為とした場合も、そのように割り切れない要素がある。それは、行政処分そのものである裁定(決定)通知書に付帯させて通知させていること、及びこの通知が「個別の時効援用である」旨年金事務所で説明している事実だ。そうであれば、これは単なる事実の通知ではなくなってくる。この2つの性質を併せ持つゆえ、国が自己の都合の良いように使い分けしている。

 元々、簡易迅速な措置を目的とした社会保険審査会のような制度では、このような基本的な考えからして対立する重大な案件を裁くには無理があることは承知していた。しかし、近く最高裁の判断も下される筈だし、自ら「準司法的機能を営むもの」(前書3頁)との自認もあるので、少しは期待していたが、全く期待に沿うものではなかった。

 それでは双方でどうすべきかの問題になるが、国は、ここでも誤った教示をしている。審査会は、行政処分ではないから却下したのだから、定例文となっている取消訴訟の教示では間違っているのである。

 単なる事実の通知(事実行為)であれば、不服審査の一般法である行政不服審査法に戻り、厚労大臣に異議申立てができることになり、また、再審査請求前置もなくなるので、行き成り訴訟をすることもできる。国の取扱いは、少し複雑になると間違いだらけの連続である。

 私が、どの道を選択するかが現実的な大問題であるが、私は行政不服審査法に基づく異議申立てを選択する。裁判は、最後の最後の手段としたい。勿論、これを進めるに当って、依頼者には、内容説明の後、再度委任契約書は結ぶが、料金はいただかない。

 異議申立てでは、支給したくない厚労大臣に申立てるものだから、棄却される可能性は高い。しかし、この方式では、弁明書が出され、それに対して反論書を出せる可能性が高い。従って、仮に最終目的は果せなかった場合でもメリットは大きい。一般的には経済的弱者である障害年金の受給権者にとっては、費用がかからない利点は大きい。論点・争点は絞られてくるし、裁判になった場合、通常認められない弁護士費用を認めていただける可能性が出てきて非常に意義深い。
posted by 326261(身にロクに無い:身に付いていない:電話番号!!) at 17:11| Comment(0) | 13 社会・仕組み
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