2022年08月27日

抑止力を発揮した44号判決

 2回目の続きを記載する。
 私は、国側の担当者でさえ著者の考え方に同調する方がみえるのであるから、確固たる信念を持った弁護士でれば、私の意見に同調してくれる弁護士がいるに違いないと考え、郷原総合コンプライアンス法律事務所に受任を打診した。
なぜなら、代表者弁護士郷原信郎氏は、専門は刑事であるが、2010年2月に発足し、2010(H22)年4月から2014(H26)年3月31日まで活動した年金業務管理委員会の委員長及び座長を務め、運用3号被保険者問題、時効特例法の記録の訂正不整合問題、及び東日本大震災等に係る死亡一時金時効適用不適切問題等を解決に導いた等の実績(年金業務監視委員会 ユーチューブ - Search (bing.com) 「年金業務監視委員会を廃止して日本の年金は本当に大丈夫なのか」)があり、公正な判断をする人柄であるからである。
 本件についても、この委員会に告発しておれば、おそらく適切に解決されていたと思われるが、私が年金業務監視委員会の存在を知ったのは、同委員会の解散後であり、69号判決が確定したのは、平成26年5月19日であるので、これも解散後のことであった。
 郷原氏は慎重で、上記の経験があるとはいえ、民事で専担弁護士が見付かれば、郷原が総合調整をする形で良ければ受任する旨の了解であった。結果、以下の3件の事件について、沼井英明弁護士を専担者として迎え、著者とも共同受任の形で争うこととなった。
 大阪府堺市のK.I氏の事件(平成28年12月27日東京地裁に提訴、平成29年11月30日民事第2部判決平成28年(行ウ)第601号事件 障害厚生年金支給請求事件)、
 神奈川県横浜市のJ.N氏の事件(平成29年3月22日東京地裁に提訴、平成30年7月17日民事第38部判決平成29年(行ウ)第119号事件 障害基礎年金支給請求事件)、
 北海道札幌市K.T氏の事件(平成29年6月12日東京地裁に提訴、平成30年9月11日民事第38部判決平成29年(行ウ)第269号事件 障害共済年金及び障害基礎年金支給請求事件)、
 最高裁判所は、これに期を合わせるようなタイミングで、44号判決を出して、増発する提訴に歯止めをかけるよう行動した。
 ところが、その判決理由は、不完全なものであったので、これにより提訴が止んだわけではない。
 上記3件の共同受任事件については、3件とも、44号判決を引用した誤った判断により敗訴となった。これらを勝ち抜くには、最高裁まで争うこととなり、着手金の支払いが困難であったので、同事務所での控訴審は、全て諦めざるを得なかった。
以後、他の事件についても、下級審判決については、原告側が、主張内容が異なると主張した事件についても、必ず、44号判決が引用されるという、司法の危機さえ感じられる事態となった。
 以下、44号判決の妥当性について検討する。
(1)判決理由の要旨
 44号判決の判旨は、「受給権者は、当該障害年金に係る裁定を受ける前においてはその支給を受けることはできない」と認めながらも、支給要件等の規定が明確である等の理由により、基本権に対する権利不行使を支分権に対する権利不行使とみなして、時効消滅させているものである。
以下判旨を引用する。
 「厚生年金保険法47条に基づく障害年金の支分権(支払期月ごとに支払うものとされる保険給付の支給を受ける権利)は、5年間これを行わないときは時効により消滅し(厚生年金保険の保険給付及び国民年金の給付に係る時効の特例等に関する法律附則4条、会計法30条)、その時効は、権利を行使することができる時から進行する(会計法31条2項、民法第166条1項)ところ、上記支分権は、厚生年金保険法36条所定の支払期の到来により発生するものの、受給権者は、当該障害年金に係る裁定を受ける前においてはその支給を受けることができない。
 しかしながら、@ 障害年金を受ける権利の発生要件やその支給時期、金額等については、厚生年金保険法に明確な規定が設けられており、A 裁定は、受給権者の請求に基づいて上記発生要件の存否等を公権的に確認するものにすぎない のであって(最高裁平成3年(行ツ)第212号同7年11月7日第三小法廷判決・民衆49巻9号2829頁参照、以下「212号判決」という)、B 受給権者は、裁定の請求をすることにより、同法の定めるところに従った内容の裁定を受けて障害年金の支給を受けられることとなるのであるから、裁定を受けていないことは、上記支分権の消滅時効の進行を妨げるものではないというべきである。
 したがって、上記支分権の消滅時効は、当該障害年金に係る裁定を受ける前であっても、厚生年金保険法36条所定の支払期が到来した時から進行するものと解するのが相当である。」
(2)44号判決の判旨に対する考察
 44号判決は、平成30年10月5日付において、212号判決を改変引用している等として、訴追請求状 (アシの会が請求人の個人情報を塗り潰しwebで公開)が提出されており色々な側面で議論のあるところであるが、それはさておき、44号判決の判決理由の順に沿ってその誤りについて指摘する。
 第一の誤りは、大前提を「裁定を受ける前においてはその支給を受けることはできない」としながら、この大前提に従わず、従わなくて良いとする理由に説得性がないこと、
 第二の誤りは、民法第166条1項の「権利を行使することができる時」の解釈誤りであり、理由は、下記@イで詳述する。
 第三の誤りは、具体的理由として説示されている、下記@〜Bの誤りである。
 以下、具体的に考察する。

以下は、本ブログの性格からして、長過ぎとなり、相当に専門的に細かくなるので、小見出しのみに割愛する。

@ 「明確な規定が設けられている」について
ア 「発生要件」について
イ 「支払期月」について
ウ 「金額」について
A 裁定は「公権的に確認するものにすぎない」について
B 「裁定(確認行為)を受けさえすれば、裁定前に生じている支分権についても直ちに権利を行使することができる」について
(3)著者の評価
ア 老齢年金の特別な事情
イ 44号判決で検討していない基本的事項
ウ 初診日の決定権は国にあり裁定前には消滅時効の起算日を決められないこと
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2022年08月19日

突破口とならなかった69号判決


 先週の続きを簡記する。
 私は、多くの実務上の矛盾を踏まえ、年金事務所、社会保険庁(日本年金機構)、厚生労働省及び社会保険審査官に対して、現在の運用を改めるべきである旨折衝した。
 以下、私が経験した個別事件について述べざるを得ないが、これに対する国及び裁判所等の対応は、公の機関として問題のある客観的事実であるので、お許しいただきたい。
 ほとんどの担当者は、深く吟味することなく否定的であったが、日本年金機構本部時効特例第4グループのU氏は、私の考え方に同調し、どっぷり漬かっていると気が付かない点がある旨発言され、お礼の言葉までいただいた。
 しかし、社会保険庁解体前後の話であり、厚生労働省保険局の国民年金法担当のM氏は、私が、社会保険庁の厚生年金保険法担当のF氏(愛知のA係長の懇意な本部の担当者が国民年金担当ではなかったため)と電話で話をしていたことに対して、訴訟は大変であるから、もう一度、愛知を経由しなくてもよいから、国民年金法担当としっかり話をした方が良い旨のアドバイスがあった。ここで、既に内部からお二人の味方が居たことになる。
 私は、これに従い、既に組織変更していた、日本年金機構に電話して、国民年金担当の方と話をしようとしたが、各県からの色々な照会の処理だけでも忙殺状態で、徹夜作業の連続であり、愛知のA係長からの件を特定することは難しい状況にあるとの回答であった。
 私は、仕方なく、成年後見人の本人訴訟として平成22年3月31日に、民法第158条1項を根拠に、名古屋地裁に提訴した。
 係争中、被告の主張には、無理が多く、ほかにも論点があるのではないかと疑問を抱き、主な請求原因を、障害年金においては、そもそも裁定前には時効消滅していないことに変更した。
 原告は、第一審では平成23年8月29日付準備書面(11)にまで及ぶ論争を繰り拡げたが、よく話を聴いてくれた増田稔裁判長の判決理由とは思われない、「権利の上に眠る者は保護されない」との引用を用いた棄却判決であった。実態を誤認したこのピンぼけな理由にはびっくりした。
 ところが、異例のことと思われるが、担当書記官が、「ここまでやって来られたのだから控訴すべきだ」との助言をしてくれたのである。既に3人の味方!!
 早速控訴して、1回目の口頭弁論では、次回平成24年4月20日に判決を言い渡すとの裁判長の言葉があり、更なる論争を期待した私は、このことに詳しい弁護士を付けるから弁論を延期していただきたい旨を申し出た。
 理由を聞かれたので、第一審の結果に影響され、弱気になっていた著者は、「民法第158条1項が適用されるべきである具体的事例について意見を補充する」旨の回答をした。
 3人の裁判官は、奥で相談をして、受任予定の弁護士から書面で申出をしてもらい、その書面に理由ありと認めたときは、弁論を再開するとの回答であった。
 結果、受任弁護士からは、弁論再開願を提出したが、再開は許されず、主要な部分は逆転勝訴判決となった。
 本件に係る核心部分の争点について、判決理由を引用する。
 「被控訴人は、社会保険庁長官の裁定は、単なる確認行為にとどまるから、控訴人の上記主張は理由がない旨主張するので、検討する。」と述べ、212号判決を引用して、「そうすると、国民年金法が、受給権の発生要件や年金給付の支給時期、金額について定めており(同法18条、30条、33条等参照)、社会保険庁長官の裁定は、上記のとおり、確認行為にすぎないことを考慮しても、受給権者は、基本権について、社会保険庁長官に対して裁定請求をし、社会保険庁長官の裁定を受けない限り、支分権を行使することができないのであって、社会保険庁長官の裁定を受けるまでは、支分権は、未だ具体化していないものというほかはない。」
 2つの争点共に、被控訴人の主張を、「被控訴人は、上記と異なる見解を縷々主張するが、いずれも採用することができない。」と退けた。
 これに対して、被控訴人からは、上告受理申立書が提出されたが、私からは、反論書を3通、受任弁護士からは、意見書を2通提出した。
 因みに、受任弁護士の2回目の意見書は、私が反論書として作成した内容について、受任弁護士が、この内容は、事務所から提出した方が良いと判断して法律的主張を補充したものであった。
 判決後、2年弱経過した、平成26年5月19日、最高裁からは、調書(決定)平成26年(行ヒ)第259号が出され、この事件は確定した。
 その後しばらくして、共同通信社のT.M記者から、厚生労働省で大騒ぎになっている旨の電話があった。
 関係者が集まり、法改正又は運用改正を要するかどうかの検討をしているといわれる。
 その会議の結果は、最高裁は、69号判決の争点のうち、民法第158条1項の適用を認めたものであり、支分権消滅時効の起算点については、認めたものではないと結論が出たようである。
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2022年08月12日

提訴、控訴の経緯について


平成22年3月31日に国に対して提訴を決意した経緯について私見を述べる。

私は、障害年金支分権消滅時効の取扱いについて、以下で述べる問題点及び実務上の矛盾を踏まえ、年金事務所、社会保険庁(日本年金機構)、厚生労働省及び社会保険審査官に対して、現在の運用を改めるべきである旨折衝した。

「(1)国及び裁判所が、法を遵守せず、国民を欺いていること
@ 支分権の問題であるのに、基本権への権利不行使を支分権への権利不行使があったとして時効消滅させていること
A 障害等級認定において、裁量権がないとしながらも、現実の認では、裁量をしていること
B 国及び裁判所が、行政処分前に時効消滅させるという通常あり得ないことを強行していること
C 裁定前に権利行使期待可能性がないものを、裁定前に時効消滅いること
D 司法(最高裁及び高裁)でも行政(社会保険審査会)でも、見解が割れているのに、徹底的な検証がされていないこと
E 裁定前には、時効中断措置が採れないのに、裁定前に時効消滅させていること
(2)救われてしかるべき受給権者が、救われていないこと
(3)44号判決の悪影響が、余りにも大きいこと」

ほとんどの担当者は、深く吟味することなく否定的であったが、日本年金機構本部時効特例第4グループのU氏は、著者の考え方に同調し、どっぷり漬かっていると気が付かない点がある旨発言され、お礼の言葉までいただいた。

しかし、社会保険庁解体前後の話であり、厚生労働省保険局の国民年金法担当のM氏は、著者が、社会保険庁の厚生年金保険法担当のF氏(愛知のA係長の懇意な本部の担当者が国民年金担当ではなかったため)と電話で話をしていたことに対して、訴訟は大変であるから、もう一度、愛知を経由しなくてもよいから、国民年金法担当としっかり話をした方が良い旨のアドバイスがあった。

私は、これに従い、既に組織変更していた、日本年金機構に電話して、国民年金担当の方と話をしようとしたが、各県からの色々な照会の処理だけでも忙殺状態で、徹夜作業の連続であり、愛知のA係長からの件を特定することは難しい状況にあるとの回答であった。

私は、仕方なく、成年後見人としての本人訴訟として平成22年3月31日に、民法第158条1項を根拠に、名古屋地裁に提訴した。

係争中、被告の主張には、無理が多く、ほかにも論点があるのではないかと疑問を抱き、主な請求原因を、障害年金においては、裁定前には時効消滅していないことに変更した。

原告は、第一審では平成23年8月29日付準備書面(11)にまで及ぶ論争を繰り拡げたが、よく話を聴いてくれた増田稔裁判長の判決理由とは思われない、「権利の上に眠るものは保護されない」との引用を用いた棄却判決であった。実態を誤認したこのピンぼけな理由にはびっくりした。

ところが、異例のことと思われるが、担当書記官が、「ここまでやって来られたのだから控訴すべきだ」との助言をしてくれたのである。

早速控訴して、1回目の口頭弁論では、次回平成24年4月20日に判決を言い渡すとの裁判長の言葉があり、更なる論争を期待した私は、このことに詳しい弁護士を付けるから弁論を延期していただきたい旨を申し出た。

理由を聞かれたので、第一審の結果に影響され、弱気になっていた私は、「民法第158条が適用されるべきである具体的事例について意見を補充する」旨の回答をした。

3人の裁判官は、奥で相談をして、受任予定の弁護士から書面で申出をしてもらい、その書面に理由ありと認めたときは、弁論を再開するとの回答であった。

結果、受任弁護士からは、弁論再開願を提出したが、再開は許されず、あ一部逆転勝訴判決となった。

本件に係る核心部分の争点について、判決理由を引用する。

「被控訴人は、社会保険庁長官の裁定は、単なる確認行為にとどまるから、控訴人の上記主張は理由がない旨主張するので、検討する。」と述べ、212号判決を引用して、「そうすると、国民年金法が、受給権の発生要件や年金給付の支給時期、金額について定めており(同法18条、30条、33条等参照)、社会保険庁長官の裁定は、上記のとおり、確認行為にすぎないことを考慮しても、受給権者は、基本権について、社会保険庁長官に対して裁定請求をし、社会保険庁長官の裁定を受けない限り、支分権を行使することができないのであって、社会保険庁長官の裁定を受けるまでは、支分権は、未だ具体化していないものというほかはない。」

2つの争点共に、被控訴人の主張を、「被控訴人は、上記と異なる見解を縷々主張するが、いずれも採用することができない。」と退けた。

これに対して、被控訴人からは、上告受理申立書が提出されたが、私からは、反論書を3通、受任弁護士からは、意見書を2通提出した。

因みに、受任弁護士の2回目の意見書は、私が反論書として作成した内容について、受任弁護士が、この内容は、事務所から提出した方が良いと判断して法律的主張を補充したものであった。

判決後、2年弱経過した、平成26年5月19日、最高裁からは、調書(決定)平成26年(行ヒ)第259号が出され、この事件は確定した。

その後しばらくして、共同通信社のT.M 記者から、厚生労働省で大騒ぎになっている旨の電話があった。

関係者が集まり、法改正又は運用改正を要するかどうかの検討をしているといわれる。

その会議の結果は、最高裁は、69号判決の争点のうち、民法第158条1項の適用を認めたものであり、支分権消滅時効の起算点については、認めたものではないと結論が出たようである。
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