私は、国側の担当者でさえ著者の考え方に同調する方がみえるのであるから、確固たる信念を持った弁護士でれば、私の意見に同調してくれる弁護士がいるに違いないと考え、郷原総合コンプライアンス法律事務所に受任を打診した。
なぜなら、代表者弁護士郷原信郎氏は、専門は刑事であるが、2010年2月に発足し、2010(H22)年4月から2014(H26)年3月31日まで活動した年金業務管理委員会の委員長及び座長を務め、運用3号被保険者問題、時効特例法の記録の訂正不整合問題、及び東日本大震災等に係る死亡一時金時効適用不適切問題等を解決に導いた等の実績(年金業務監視委員会 ユーチューブ - Search (bing.com) 「年金業務監視委員会を廃止して日本の年金は本当に大丈夫なのか」)があり、公正な判断をする人柄であるからである。
本件についても、この委員会に告発しておれば、おそらく適切に解決されていたと思われるが、私が年金業務監視委員会の存在を知ったのは、同委員会の解散後であり、69号判決が確定したのは、平成26年5月19日であるので、これも解散後のことであった。
郷原氏は慎重で、上記の経験があるとはいえ、民事で専担弁護士が見付かれば、郷原が総合調整をする形で良ければ受任する旨の了解であった。結果、以下の3件の事件について、沼井英明弁護士を専担者として迎え、著者とも共同受任の形で争うこととなった。
大阪府堺市のK.I氏の事件(平成28年12月27日東京地裁に提訴、平成29年11月30日民事第2部判決平成28年(行ウ)第601号事件 障害厚生年金支給請求事件)、
神奈川県横浜市のJ.N氏の事件(平成29年3月22日東京地裁に提訴、平成30年7月17日民事第38部判決平成29年(行ウ)第119号事件 障害基礎年金支給請求事件)、
北海道札幌市K.T氏の事件(平成29年6月12日東京地裁に提訴、平成30年9月11日民事第38部判決平成29年(行ウ)第269号事件 障害共済年金及び障害基礎年金支給請求事件)、
最高裁判所は、これに期を合わせるようなタイミングで、44号判決を出して、増発する提訴に歯止めをかけるよう行動した。
ところが、その判決理由は、不完全なものであったので、これにより提訴が止んだわけではない。
上記3件の共同受任事件については、3件とも、44号判決を引用した誤った判断により敗訴となった。これらを勝ち抜くには、最高裁まで争うこととなり、着手金の支払いが困難であったので、同事務所での控訴審は、全て諦めざるを得なかった。
以後、他の事件についても、下級審判決については、原告側が、主張内容が異なると主張した事件についても、必ず、44号判決が引用されるという、司法の危機さえ感じられる事態となった。
以下、44号判決の妥当性について検討する。
(1)判決理由の要旨
44号判決の判旨は、「受給権者は、当該障害年金に係る裁定を受ける前においてはその支給を受けることはできない」と認めながらも、支給要件等の規定が明確である等の理由により、基本権に対する権利不行使を支分権に対する権利不行使とみなして、時効消滅させているものである。
以下判旨を引用する。
「厚生年金保険法47条に基づく障害年金の支分権(支払期月ごとに支払うものとされる保険給付の支給を受ける権利)は、5年間これを行わないときは時効により消滅し(厚生年金保険の保険給付及び国民年金の給付に係る時効の特例等に関する法律附則4条、会計法30条)、その時効は、権利を行使することができる時から進行する(会計法31条2項、民法第166条1項)ところ、上記支分権は、厚生年金保険法36条所定の支払期の到来により発生するものの、受給権者は、当該障害年金に係る裁定を受ける前においてはその支給を受けることができない。
しかしながら、@ 障害年金を受ける権利の発生要件やその支給時期、金額等については、厚生年金保険法に明確な規定が設けられており、A 裁定は、受給権者の請求に基づいて上記発生要件の存否等を公権的に確認するものにすぎない のであって(最高裁平成3年(行ツ)第212号同7年11月7日第三小法廷判決・民衆49巻9号2829頁参照、以下「212号判決」という)、B 受給権者は、裁定の請求をすることにより、同法の定めるところに従った内容の裁定を受けて障害年金の支給を受けられることとなるのであるから、裁定を受けていないことは、上記支分権の消滅時効の進行を妨げるものではないというべきである。
したがって、上記支分権の消滅時効は、当該障害年金に係る裁定を受ける前であっても、厚生年金保険法36条所定の支払期が到来した時から進行するものと解するのが相当である。」
(2)44号判決の判旨に対する考察
44号判決は、平成30年10月5日付において、212号判決を改変引用している等として、訴追請求状 (アシの会が請求人の個人情報を塗り潰しwebで公開)が提出されており色々な側面で議論のあるところであるが、それはさておき、44号判決の判決理由の順に沿ってその誤りについて指摘する。
第一の誤りは、大前提を「裁定を受ける前においてはその支給を受けることはできない」としながら、この大前提に従わず、従わなくて良いとする理由に説得性がないこと、
第二の誤りは、民法第166条1項の「権利を行使することができる時」の解釈誤りであり、理由は、下記@イで詳述する。
第三の誤りは、具体的理由として説示されている、下記@〜Bの誤りである。
以下、具体的に考察する。
以下は、本ブログの性格からして、長過ぎとなり、相当に専門的に細かくなるので、小見出しのみに割愛する。
@ 「明確な規定が設けられている」について
ア 「発生要件」について
イ 「支払期月」について
ウ 「金額」について
A 裁定は「公権的に確認するものにすぎない」について
B 「裁定(確認行為)を受けさえすれば、裁定前に生じている支分権についても直ちに権利を行使することができる」について
(3)著者の評価
ア 老齢年金の特別な事情
イ 44号判決で検討していない基本的事項
ウ 初診日の決定権は国にあり裁定前には消滅時効の起算日を決められないこと
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